「観ていて腹が減ってくるのは良いグルメ映画の証明だ」シェフ 三ツ星フードトラック始めました といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
観ていて腹が減ってくるのは良いグルメ映画の証明だ
映画レビュアーとしても有名なライムスター宇多丸さんが絶賛していた本作。「万人におすすめできる」と話すほどに絶賛していたのが気になって鑑賞しました。
「一流レストランのシェフが色々あってフードトラックを始める」というおおまかなあらすじは知っている状態での鑑賞です。
結論。非常に良かった!!!宇多丸さんが「万人におすすめできる」と言った意味が理解できました。
料理を通じた人間関係、親子愛や夫婦愛などがきっちり描かれていて人間ドラマとしても非常に楽しめましたし、何よりも出てくる料理が全部めちゃくちゃ美味そうなんです。映画中盤に、トラックを手に入れてからはフードトラックとして営業しながら自宅まで帰るロードムービーになります。主人公と息子、そして主人公の助手のお調子者シェフ。男三人による旅行シーンの楽しいこと楽しいこと。アメリカ各地の名産品を食べたりおバカな下ネタで盛り上がったり。不器用な父親と知的な現代っ子の息子による親子ドラマが非常に素晴らしかった。
「料理を介した父子の交流を描く」といえば、最近は『461個のおべんとう』という邦画がありましたね。こちらの作品も非常にクオリティの高い飯テロ&親子愛映画ですので、本作が気に入った人はぜひ観てみてください。多分ハマると思いますよ。
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ロサンゼルスにある一流のレストランで総料理長として働く凄腕シェフのカール(ジョン・ファブロー)は、定番のメニューしか作ることを許さない凝り固まった考えを持つレストランオーナーと揉めていた。ネットで有名なグルメ評論家が来店した時もオーナーの指示で定番メニューを提供したのだが、これが評論家に酷評されてしまう。怒り心頭のカールは評論家に対して暴言を投げつけ、これがきっかけでネットは炎上。カールは職場を追い出されて再就職先を探すがなかなか見つからなかった……。
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ジョン・ファブローは本作の製作・脚本・監督・主演という一人四役を務めた天才的人物。アイアンマンの監督として確かな地位を築いた人物であり、そして本作は彼がアイアンマンの続編の監督オファーを辞退してまで作りたかった映画。
まずはこれだけ言わせてほしい。この作品を作ってくれてありがとうジョン・ファブロー!!
物語の前半、主人公のカールがレストランのオーナーによって本来の自分の作りたい料理が作れないという葛藤が描かれます。有名なグルメ評論家が来店するということで渾身の新メニューを作ろうとするカールに対して「勝手なことをするな、いつものメニューを作れ」と高圧的なオーナー。メニューはカールが自由に決めて良いという契約だったのに、オーナーは権力を笠に着てカールに指示を出します。そして案の定評論家に酷評され、総料理長である自分の顔に泥が塗られる結果になってしまう。
この描写はなかなかキツかったですね。「自由に料理作って良い契約だったじゃないですか!」って感じで。こないだ観た『花束みたいな恋をした』でも「1カット1000円の契約だったじゃないですか!」ってシーンありましたけど、それに通ずるところがありましたね。
そして中盤。レストランをクビになってしまったカールが息子と元妻と一緒に故郷のマイアミに訪れた際、そこで食べたキューバサンドイッチの美味しさに驚き、過去に一度「フードトラックをやらないか」と誘われていたことを思い出し、「このサンドイッチをフードトラックで出そう」と決心します。
フードトラックの入手までがかなりとんとん拍子に進むので後から考えてみれば結構ご都合主義な展開なんですけど、実は序盤で元妻との関係性とかフードトラックの話がちらっと出ていたので映画観ている最中は全然違和感感じなかったです。ここは脚本の妙だと思います。
後半は男三人で自宅へ帰るまでのロードムービーになります。
カールと助手のマーティン、そして息子のパーシー。男同士のロードムービーには思わずニヤニヤしてしまうような笑える描写がてんこ盛りで、自分も4人目のメンバーとしてアメリカを廻っているような気分にもなれます。マーティンが「シェフに年齢は関係ない」とパーシーにビールを勧める描写がありましたが、本当に年齢の差を感じさせないような仲良しな三人の旅行はずっと観ていたくなる魅力があります。あと5時間観れる。ずっと観てられる。
SNSの使い方も上手かったですね。序盤はカールがネット炎上を起こしてレストランをクビになる描写があるように「使い方を間違えると怖いよ」という使われ方をしていましたが、後半はパーシーがフードトラックの広告のためにSNSを活用し、たくさんのお客さんがカールの料理を目当てに押し寄せて人々の輪が広がっていくなど、「正しい使い方をすれば便利だよ」という使われ方をしていました。最近の作品ってSNSの悪い面ばっかり描写する作品が多いように個人的に感じていて、それがすごく不満だったんですよ。なので、本作のようにSNSの良い面と悪い面をきっちり描いているのは好感が持てました。
他にも素晴らしいところがたくさんあるんですが、既にかなり長くなってしまったので割愛します。
本作は久々に「誰が見ても面白いだろう」と思える名作でした。オススメです!!!