「家族や祖国を失っても、心や誇りは失っていない」グッド・ライ いちばん優しい嘘 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
家族や祖国を失っても、心や誇りは失っていない
タイトルはハートフルな感動作を想像させるが、社会派題材を扱った実話に基づくヒューマン・ストーリー。
考えさせられ、感動もあり、なかなか見応えあった良作。
1983年、第二次スーダン内戦。家族や故郷を失った多くの難民孤児=ロストボーイズ。
隣国ケニアの難民キャンプへ向かう。約1000キロ以上の道中、病気やゲリラ、犠牲や死別を繰り返しながら。
やっと辿り着いたのは、マメール、ジェレマイア、ポール、アビタルの4人だけ…。
辿り着くまでの苦難の旅路だけでも一本の映画に出来たかもしれない。
が、あくまでプロローグ。
なので、旅路の辛さ苦しさをもうちょっと深く描いて欲しかった気もするが、本作のメインはここから。
10数年後の2000年、彼らロストボーイズがアメリカに移住する事に。
アメリカで実際に行われたというスーダン難民孤児受け入れプロジェクト。
これまでの貧しい暮らしとおさらば、自由の国アメリカで幸せで豊かな暮らしが始まる…否!
入国審査でいきなりトラブル。アビタルだけ別の州へ。
4人は一緒に居る事を強く訴えるが…、国の手続きの前ではどうする事も出来なかった。
マメールらはカンザスへ。
何もかもが見た事無い。マクドナルドや奇跡の食べ物=ピザに驚き、電話すら使い方も分からない。
カルチャー・ギャップはユーモアを生むが、彼らの場合はこれが現実。
特に大変なのが、就職。
雇う側も難色示し、雇われても困惑ばかり。故に、長続きせず…。
あの旅路は辛く、苦しかった。
難色キャンプでの暮らしも貧しい。
それに比べると…いや、今の彼らの暮らしは本当に幸せと言えるのだろうか?
家族/仲間と離され、遠い異国の地で右も左も分からず、ただ働くだけ。
納得のいかない事も多々。
スーパーで働くジェレマイアだが、廃棄処分の食品を貧しい人にあげ、店から注意される。
ジェレマイアたちにとって食品は生きていく為に食べるもの。が、店側にとってはただ売る為のもの。
この廃棄処分される大量の食品で、どれほどの難民孤児が腹を満たせる事か…。実際、目の前の人も。
これはそんなにいけない事なのか…?
ポールは新天地での生活に心底嫌気が差し、無断欠勤や家にも帰らず。
彼らの就職を担当する事になった職業紹介所のキャリー。
当初は全くの文化や価値観の違いからイライラが募るばかり。
が、ある時、彼らのこれまでの苦難や難民孤児の現状を知る。彼らの為に尽力する。
離れ離れになったアビタルを自宅に受け入れようとする。
そして、サプライズな“クリスマス・プレゼント”。
ちとベタな役柄だが、交流は温かい。
一応主演はリース・ウィザースプーンで好演しているが、本当の主役はマメールたち。
実際に難民孤児だった彼らの存在がリアリティーをもたらす。
時々悩んだり喧嘩もしたりもするけど、彼らの心が本当に純粋。
さて、タイトルの“グッド・ライ”=“いい嘘”。
これは、ラストに。
マメールは思いがけない人物と再会する。
その人物の為の“グッド・ライ”。
はっきり言ってしまうと、法に触れる。
が、自分の豊かな生活をその人物に譲り、自分は再び難民キャンプに戻って尽くそうとするマメールの決断に、誰が彼を責められようか。
虚しい争いにより、家族や仲間、祖国まで失ったロストボーイズ。
が、彼らのピュアな心や彼ら自身の誇りは失っていない。