劇場公開日 2015年10月3日

「これが大根監督の「大バクチ」だぜ!!」バクマン。 ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5これが大根監督の「大バクチ」だぜ!!

2015年10月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

興奮

最初はね、観に行く予定もなかったんです。でも、監督が大根仁さん、と聞いてちょっとビビッと来たんですね。
あの「モテキ」の監督さんですよ。
これ、「オモロいかも」という感じで見に行きました。
結果。大満足!!
もしかして、これって、今年観た映画の中でベスト5に入っちゃうかもしれないです。
やっぱり、映画ってねぇ、何をどう撮ったっていいんですよ。基本、表現は自由なんですから。
どうしても、ちょっと映画をかじると、プロっぽくやろう、とか、あの大監督さんの作風でやってみたいと思うわけですよ。
例えば小津映画の様式美は素晴らしい。洋画のアンゲロブロス監督のスケール感は例えようもない。ヴィスコンティ監督の美意識は酔いしれますよね。じゃあ、自分はどんな映画を撮るのか? 映画監督を志す若者たちは、ぜひ、独りよがりでもいい、自分にしかできない表現を模索してほしいんです。
大根監督はそれを商業映画の中で、どれだけの可能性が示せるのか? 果敢にチャレンジしている監督さんの一人だと、僕は確信します。
映画の中に、書店のポップアップ広告、マンガの吹き出しみたいなのを入れてもいいじゃない!(たぶんこれを最初にやったのは、中島哲也監督の「下妻物語」だと思う)
本作は、漫画家を志す二人の高校生が主人公。
高木君(神木隆之介)は文章、ストーリーを書くのが得意。同じクラスにいる真城君(佐藤健)は絵を描くのが得意。そこで高木君から提案あり。
「俺、ストーリー書くからさァ、オマエ、画を描いてくんない!?」
そして二人でマンガを作って、デビューしようぜ!!というのです。
最初はあまり乗り気ではなかった真城君。さて、クラスには真城君の憧れの女の子がいます。それが亜豆美保(小松菜奈)さん。圧倒的な美貌とスタイルの良さ。まさしくアイドルです。そんな彼女、実はアニメの声優を目指していることを知った真城君。
「もし、俺が漫画家デビューして、そんで、そんで、もしだよ、アニメになったら、その時はヒロイン役やってくれる?!」
彼女の答えは……
「Yes」でした。
「よっしゃぁぁぁぁぁ~!!
おれは漫画家になってやるぞぉぉぉぉ~!!」
真城君は高木君と組んで一心不乱にマンガを描き始めます。
「マンガやるなら、頂点めざそうぜ!!」
二人はマンガ界の巨人と呼ばれる「少年ジャンプ」編集部に、やっとの事で描き上げたマンガを持ち込むのです……
漫画を創作する、彼らの頭の中、どんなアイデア、どんなストーリー、どんな表現をやろうか? 表現者であれば、誰もが経験する、自分一人にしかわからない、実に曖昧模糊とした、ある種の「ゾーン」
それをプロジェクトマッピングという新しい手法で、本作は描いてみせます。彼ら二人の心象風景を、大根監督は、スクリーンで観客に提示することに、見事成功しました。その演出はけっして独りよがりではない、と僕は思います。
また、その手法は、のちに二人がタイマン勝負することになる、天才漫画家との熾烈な競争のシーンでも、実に効果的に使われます。
この天才漫画家を演じるのが染谷翔太君。
彼、いいねぇ~。
ここまでちゃんと役作りしてくるとは思ってもみませんでした。
以前見た矢口史靖監督の「WOOD JOB!」では、まだまだ、新人臭さが抜けていない感がありました。
でも本作では、明らかに役者として成長している姿が見られます。
天才にありがちな、ひとりよがり、わがまま、傲慢、クセとアクの強さ。
普段からかなり猫背な姿で、フラフラと歩く若き天才漫画家を、実に巧みに演じました。
それを演出した大根監督。やっぱ、エッジが立ってるわぁ~、っていう感じですね、
矛盾した言い方かもしれないけど、アマチュアなら、大いに独りよがりでいいと思います。
しかし、必死の思いで努力して、ようやくプロになった。
マンガを描いてお金をもらう。当然、「読者が面白い!」と思ってもらえるものを描かねばならないわけです。
もう、独りよがりでは通用しない世界なんですね、プロっていうのは。
さらに、映画の場合もっとアブナイ……。作品に関わる人が格段に多くなるんですね。
映画に出資してくれる支援者は、まだ、完成品が見れないわけです。
「これからつくる」映画作品に大きなバクチを打つわけです。
それは売れる作品なのか? はたまた、大衆がそっぽを向くのか? もし、そんなことになったら、もう大赤字。最悪の場合は、監督、プロデューサーは首を吊らねばなりません。売れなきゃ、おしまい「the end」です。
そういう意味で、最近では、大ヒットマンガの映画化が進んでいるのは、出資者への、ある種の「保険」がかかった作品作りとも言えますね。
ところで皆さん、映画のエンドロールって最後まで見ますか?
僕は本作については、最後までちゃんと見ました。
なんで?
だって、エンドロールまでも面白いんだもん。
こんなに素晴らしいサービスしてくれてるエンドロールなんて、今まで見たことがないです。
1960年代までの映画は、エンドロールなんて、ほんとあっさりしてました。
あるいは、オープニングロールで、先に出演者やスタッフ紹介がありました。
それも、実に短い時間です。
ところが、映画が巨大産業になるにつれ、関わるスタッフの数が、半端なく多くなってきました。とうぜん、エンドロールも長くなる。
「しょうがねぇじゃん」
それが業界でまかり通ってきました。
また、一部の「映画評論家」「映画通」「映画マニア」と称する連中が、この「糞面白くもない」エンドロールを、最後まで見るのが「エチケット」なのだと、いう風潮を作ってしまいました。
エンドロールを最後まで見るのが「本当の映画ファン」なぁ~んだって!!
笑わせるな!!
だから誰も映画館に行かなくなったんだ!
映画を作る側も、最後の最後まで観客をどう釘付けにしようか、という創意工夫を何にもやってこなかった。はっきり言って明らかにサボってた。
「エンドロールは長くて当然じゃん」
それが業界の常識。
でも観客の立場からは、まったくの非常識。
こんなつまらん、背景真っ黒、知らない人の名前だけ、延々五分以上見せ続けられるなんて、たまったもんじゃない。こっちはお金払ってるんだからね。
我慢大会やってるんじゃないんだよね。
大根仁監督という人は、本当にサービス精神旺盛な人で、観客をどうやって楽しませようか。あっと言わせようか、ニヤッとさせてやろうか、そんな楽しいことしか考えていない、ちょっとイタリアンな感じの人じゃなかろうか。
僕は本作のエンドロールを見ていて、そんな風に感じました。
映画は確かに大バクチです。
でも僕は、あの偉大なスティーブ・ジョブズの言葉を借りて言いたい。
「そりゃあ、失敗する可能性は高いよ、でも僕は一生のうち、一回でも映画を作ったことがあると言えるんだ。それだけで誇りだよ」

ユキト@アマミヤ