「エロティックなまでの男優陣」新宿スワン 鰐さんの映画レビュー(感想・評価)
エロティックなまでの男優陣
佳い。艶かしい。
相変わらず、雑というか行き当たりばったりとしか言い様がないプロットと俗っぽいとしか言いようがない愁情の波間に、ぽつりぽつりと問答無用にエモい一瞬一瞬が煌めいて浮かんでいる。クライマックス直前までのかったるさも含めて、映画の持つ良い意味での大味さをうまく調理できている。
特に役者の使い方がいい。関役の深水元基のとことんまでのふてぶてしさ、山田孝之のキレ者であると同時に芯がどうしてもヘタレな感じ、金子ノブアキの底知れなさ、安田顕の『アウトレイジ』のときの石橋蓮司にも似た不条理なやられ役っぷり。
いずれもそこしかない、というピンポイントのハマり具合。そんな中でも主演の綾野剛は際立っている。
綾野剛は孤独で弱い人々を救う天使だ。彼は敵味方で分け隔てない。
彼は過去や故人を新宿の路上に幻視することができるし、願えば断絶された崖の向こうまで飛んで友情だって築けるだろう。
自分でも繰りかえすように彼は「バカ」だ。信義を絶対の基準におき、どんな相手でも友と見れば徹底的に尽くし、裏切られれば絶望して死にたがる。そんな救いようのない直情が、悪徳の都・新宿歌舞伎町では掃き溜めの鶴にも似た輝きを放つ。
裏を返せば、綾野剛以外はほんとにどうしようもない欲望しか残らない。
彼の属するスカウト会社は裏社会の組織であって、仁義なき裏社会の組織である以上は、実利によってしか駆動しない。
隙ができた人間、弱さを見せた人間から死んでいく。
古典的な殴り合いで友情に目覚めてしまった秀吉が「階段から転落」(やたら階段に縁のあるキャラだ)し、一見情に厚い人格者である真虎や当初秀吉の踏み台扱いされていた葉山が生き残るのも、つまりはそういう論理にもとづいている。
なので本来的には綾野剛もまた死ぬべきなのかといえば、そうではなくて、彼のやさしさは弱さというよかむしろ強さに属するものだし、そもそも彼は人間ではなく天使なのだから、人間世界の因果で捉えられない存在なんだよねえ。