「【わさわさと咲き、もりもりと散る】」百日紅 Miss HOKUSAI ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【わさわさと咲き、もりもりと散る】
北斎が「おーい、おーい」と四六時中、呼びつけたから、葛飾応為。
この作品の主人公、お栄の画号だ。
ふっとい眉毛で、自分のことを俺と呼ぶ。
この風貌は、江戸風俗研究家でもある杉浦日向子さんの創作だが、お栄と云えば、僕にとっては、この顔、この眉、そして、映画のせいで、この杏さんの声になってしまった。
(原作の漫画は、まぶたがもっと重そうで、アニメは美人に調整されていますね。)
「合葬」などとならんで杉浦日向子さんの代表作である「百日紅」のアニメ映画化だ。
テアトルでアニメを上映することがあるんだとか思いながら5年以上前に出かけたことを今でも鮮明に覚えている。
今でも続く浅草寺の四万六千日の縁起担ぎ、原っぱのなかにどーんと現れる吉原、そして、隅田川。
きっと江戸はこんなんだったんだろうなと、原作の共々思わせてくれる。
そして、お栄。
生涯、北斎に付き添い、結婚経験はあったようだが、実際は自立して自由に生きた女絵師。
幕府の取り締まりのあれこれを、ものともしない江戸の人々の自由な気質にも重なる。
しかし、作品は多くなく、北斎をして、美人画は自分より上手いとされたが、艶っぽさは歌麿やへた善には及ばない。
歌麿のちょっとエロチックな江戸の女性は誰もが知るところだと思う思うが、へた善こと渓斎英泉の描く女性は、石原さとみのようなふっくらした唇が特徴でセクシーだ。
でも、葛飾応為の描く女性は、凛として誰にも依存しない自立した感じが最大の特徴だ。
「月下砧打美人図」や「三曲合奏図」がそうだ。
前者は東京国立博物館蔵、後者はボストン美術館蔵で、昔、里帰りした時に見た。
そして、応為は、卓越した陰影表現を用い、「吉原格子先之図」や「夜桜美人図(春夜美人図)」を描いた。
前者は太田記念美術館蔵で、後者はメナード美術館蔵。
江戸末期とは云え、ルネサンス後期の陰影表現を用いた天才画家カラヴァッジオの作品に触れることなどなかったはずなのに、この独特な陰影表現を見ると、天才とはアトランダムに出現するのだと改めて思う。
日本にある作品も数年に一度観る機会があるかないかのはずなので、興味のある方は色々調べてみて下さい。
お栄。
江戸の自由な雰囲気のなか、オヤジの世話をしながら、オヤジの代筆も厭わず、気ままに自身で凄い肉筆画を残した天才女絵師。
描く女も男な諂うことなどない自立した女だ。
わさわさと咲き、もりもりと散る。
短くはなかったと思うが、ふっとく生きた百日紅のような女の人生だ。
おもしれぇ。
因みに、僕は、杉浦日向子さんが生前よく通ったという浅草の蕎麦屋が大好きだ。
もともと昼しか営業してなくて、開店前から人が並んで、蕎麦が無くなることもしばしば。
辛い蕎麦つゆに、摘んだ蕎麦の先っぽをちょいとつけて、ずずっ一気に啜る。
蕎麦の香りが口の中にふわっと広がる。
相席した下町のおばさんに、良い食いっぷりだね!江戸っ子だね!と言われて、良い気分になったこともある。
江戸っ子じゃないけど。
ドイツのグルメ雑誌の取材に同席したこともある。
その雑誌にデカデカと僕の顔が何枚か載った。
ちょっとした自慢だ。
百日紅は大好きなアニメだ。