「戦争映画好きの自分でさえひいてしまう、モラルが欠如した偽善ぶり。」フューリー moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争映画好きの自分でさえひいてしまう、モラルが欠如した偽善ぶり。
アクションは楽しんだし、本物の戦車の迫力が味わえた分で星1つ半。だけども・・
普通、戦争映画っていうのはそのジャンルの性質上、キャラクターの善悪のモラルのバランスに配慮していると思う。
例えば、「プラトーン」とかいい例だけど、民間人を射殺したり、レイプしたりするようなクズがいる中で、同時にそういった極限の中でも人間らしさを貫こうとする者がいて、主人公は狂気の中でなんとかそこに希望を持とうとする。それによって観客はキャラクターに感情移入が出来るのだと思う。
で、フューリーでは、いくつかのシーンで、降伏した無抵抗の兵士の射殺、一般市民の女性への侮辱、セックスの強要が行われている事が具体的だったりほのめかされたりして出てくる。
だけど、問題は「そういう事をしてしまったやつもいた」とかじゃなくて、主人公のチームメイト全員が関与してしまってるってこと。しかも、そのシーンがあってすぐ、次の戦闘シーンに行くからさ・・→はっきり言って、誰にシンパシーを持てばいいの?一線越えたことやっちゃってるやつらの「恐怖や葛藤」とか見せられてもどうやって感情移入できんのよ?自分たちもやりたい放題やってんだから、因果応報だろよ。
一番腹が立つのは「俺たちはクズだけど、それは戦争の狂気が俺たちを変えちまったんダ。頭が弱いだけで、本当はピュアないいやつなんだよ」っていうようなシーンが何か所かあるのよ。
それぞれのキャラクターに戦争による心の傷があるっていうのはわかる。でもこの映画ではそれを自分たちがした行為の「言い訳」に使ってるのよ。
つまり「女一人か二人ぐらい戦争だったら犯すこともある。」って言ってるわけよ。で、この監督はお客さんは「女一人か二人ぐらい犯している」奴でも「根はいいやつ」で帳消しにして応援してくれるって思ってるわけでしょ?
それで映画としてバランスが取れてて、言い訳になると思ってるこの監督の感覚が怖いわ。
例えるなら、10代で暴行とか傷害事件なんかで人の人生変えておいて、「むかしはやべえこともやったよな。」なんて武勇伝として語っているやつの薄気味悪さと似てるのよ。「お前どの口でそれが語れるの?」っていう・・。
戦争映画でそういうシーンを見せる時にマナーとして大事なのは「あなたはどう思いますか?あなたならどうしてましたか?」っていう問いを観客に訴えかけることだと思う。でもこの映画ではその選択肢がない。そこを「ひどいことしたけどあれは仕方なかった」っていう描写にしたらだめなんだよ。
そもそも、元海軍でガンアクションの映画ばっかり撮ってる監督が戦車の映画を作ったら、「ヒロイックな戦争アクションが大好き」「マッチョな男同士の友情が好き」なのはバレバレだし、だったら堂々とそういう映画を撮ればいいと思う。観客もそれを見に来てるわけだし。
だからこそ無理に「社会派」みたいなふりをするのはやめてほしい。別にこの映画に「プラトーン」とか「硫黄島からの手紙」とか期待してないのよ。興味ないのに関心あるふりするからその偽善っぽさに余計腹が立つ。