「夢から覚める零時前」劇場版 零 ゼロ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
夢から覚める零時前
本作の原案であるテレビゲーム『零』はこれまで
7作の関連作が作られた和製ホラーゲームで、
『サイレントヒル』『SIREN』『バイオハザード』
などと並んで世界的に評価されている作品。
ゲームの方は登場人物の殆どが(なぜか)可愛い女の子
ばっかなのだが、恐怖演出は和風ホラー映画の
影響が色濃くて怖い。ヒジョーに怖い。
とはいえ、この映画を観る上では特にそちらを
予習しておく必要は無いと思う。
共通点もあるにはあるが、話の筋も恐怖の質もまるで異なるから。
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少し付けすぎかと思いつつも安里麻里監督の
前作『バイロケーション』には4.5判定を入れた僕だが、
物語の複雑さや衝撃度は『バイロケーション』ほどでは
ないにせよ、今回の方が作品としての完成度(語り口の
滑らかさや全体的なまとまり具合)は高いと感じた。
白眉は謎の美少女を演じる中条あやみだ。
前半で恐怖を振り撒く彼女の描写は絶品。
不気味な表情や奇怪な動作で恐怖を煽る幽霊映画は
世に溢れている訳だが、この映画は端正な
顔立ちをした少女の、感情の読めない無表情が
大写しになるだけで心底恐ろしく見えるんである。
物言わず佇んでいるだけでこの世の者で無いと分かる、
あの序盤のショットの素晴らしさ!
暗がりで、曲がり角で、橋の上で、
ただ待ち構えているだけで、背筋がつうっと冷たくなる。
集会の時に宙から降り立つ姿など、神々しいほどに恐ろしい。
瞬間的にゾッとさせるのではなく、映像を見つめる内に
ぞわぞわぞわっと悪寒がせり上がってくるような怖がらせ方。
これって相当に高度だと個人的には思う訳です。
背後で幽霊のように浮かぶ肖像写真、
写真館の壁一面に祀られた婚礼写真、
薄霧の山中で一際目を引く赤い紐など、
ハッとさせられるビジュアルも多い。
特にあの、河川敷にいくつもの○○が流れ着く
悪夢のような光景はとてつもなく恐ろしかった。
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そしてもうひとつ。
この作品には単に恐ろしいだけのホラーとは異なる、
なんとも言えないざわついた余韻が残る。
主人公たちの前で痛すぎるファッションを
披露するメリーさん(中越典子スゲー)が、
普段の生活ではひとつも面白く無さそうに
煙草を吹かしているシーン。
あるいは中村ゆりと浅香航大が演じた、何かに怯え続ける姉弟。
またあるいは物語の発端であることが最後に明かされるあの人。
目を輝かせて将来の夢を語る少女たちに対し、
この映画に登場する大人たちは今生きる現実に
疲弊しているような者たちばかりだ。
結ばれない恋心、叶わなかった将来の夢、取り消せない過去。
歳老いても、浮遊したまま水面を漂い続ける願い。
決して報われないのにそれはいつまでも頭を離れてくれない。
主人公二人の最後の決心にも、楽しく無邪気な夢から
覚めてしまうような一種の物寂しさが付きまとっている。
彼女らもまた大人になり、現実が思っていたより
美しい場所で無いと知るのだろう。むしろ本作は、
彼女らがそれに気付き始めるまでの物語なのだろう。
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以上。恐怖と寂しさが静かに押し寄せる秀作でした。
原作と全然違うじゃんと怒る人はいるんだろうし、
僕のレビューは相変わらず他の方とズれてる気が
するのであまり参考にはならないかもだが(笑)、
個人的には大満足の4.0判定!
安里監督の次回作が楽しみ。
<2014.09.27鑑賞>
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余談:
後半で登場するスキンヘッドの兄ちゃんと
派手な髪型の姉ちゃんは、なんでも『黒鷺死体宅配便』
というサスペンスホラー漫画のキャラクターらしい。
なんでも監督が漫画のファンなんだそうで。
あの2人だけ全力で作品から浮いていたのは
そういう事だったのね(笑)。
そっちも映像化の予定があるのかしら。