「間違いから始まる」めぐり逢わせのお弁当 玉川上水の亀さんの映画レビュー(感想・評価)
間違いから始まる
インド映画というと、ポリウッド映画に代表されるような歌と踊り、アクションと笑いがてんこ盛りというイメージがあるが、この作品はそういうイメージを覆し、静かに心に語り掛けてくる。
インドの大都市ムンバイを舞台に、孤独を抱えた二人、普通の主婦イラと早期退職間近の男やもめのサージャンが、誤配達された弁当を通して出会い、心の交流をしていく様を繊細なタッチで描いていく。
私はサージャンと年齢が近いこともあり、彼の考えや行動が痛いほど分かって共感してしまう。
小学生の可愛い一人娘を持ち、裕福ではないにしろ、傍目には幸せそうに見える主婦イラの心の渇きも理解出来る。
そしてこの二人が求めるものは、サージャンが夜自宅のベランダから眺める隣家の団欒風景に象徴されていると思う。
一つのテーブルを囲んでも、夫はテレビばかり観ていて会話の無いイラ家の夕食。
家に帰っても待つ人も無く、一人侘しく出来合の夕食を摂るサージャン。
二人共、温かく幸せな家族の風景を望んでいた筈なのに、様々な要因で掛け違ってしまった人生。
その掛け違いを何とかしようと、愛情をこめた弁当を夫へ届けるつもりだったのが、何故か間違って退職間近の男やもめのサージャンの元へ。
この間違いから始まった面識も無い男女の交流が、メールやSNS全盛の昨今なのに、古式ゆかしい手段で行われていく。
人生の大きな曲がり角にいる二人の関係の行き着く先は?
直接会っていない二人の「会話」や、場面転換や場面の繋ぎが絶妙で、作品構成の上手さが光る。
主演の二人をはじめとして、キャストたちの演技のアンサンブルがユーモアと温かさに満ちている。
そしてラスト、この何か我々に希望を与えてくれる幕切れが何とも心地良い。