「お弁当箱いっぱいの出会い」めぐり逢わせのお弁当 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
お弁当箱いっぱいの出会い
インドには手作りお弁当を職場へ配達して貰う仕事があるらしい。
誤って別の人に配達され、その出会いから歌って、踊って…ではないインド映画。
資本にフランスとドイツが入ってるとは言え、超絶エンターテイメントのインド映画らしかぬ淡々と、しかしじっくり見れるヒューマン・ドラマ。
平凡な主婦イラ。
夫は仕事に忙殺で、夫婦仲は冷えきっている。
それでも夫に振り向いて貰えるようお弁当を作る。
そのお弁当が…
とある会社に勤める中年男性、サージャンに間違って届けられてしまう。
インド人女優は美人が多い。イラ役のニムラト・カウルも例外ではないが、やはり本作はサージャン役の、『スラムドッグ$ミリオネア』『ライフ・オブ・パイ』『ジュラシック・ワールド』など国際的に活躍するイルファン・カーンが素晴らしい。
演じたサージャンは、良く言えば真面目で物静か、悪く言えば面白味の無い男。お弁当が間違って配達された事を知ったイラは弁当に手紙を送付するが、その返信に「塩辛い」なんて書いて寄越す無愛想。
しかしその抑えた演技、男やもめの侘しさが絶品。
一見ロマンスグレー風ではあるが、枯れた具合が滲み出てる。
また、サージャンの後輩社員がちょっとウザくて面倒臭いが、人懐こい。
声だけのおばさんが言うまでもなくナイス助演。
弁当が間違って配達されている事を知ったのなら、その時点で配達人に伝えればいいのだが…
イラはまたお弁当を作り、それはサージャンに届き、綺麗に完食。
それがちょっと嬉しいって事もあるかもしれないが、弁当に手紙を送付しての文通が始まる。
自分に関心を示してくれない夫の事など寂しい胸の内を書くイラ。
サージャンもまた妻と死別して、今は独り身。
お互いの今の事、他愛無い事、自分の人生の思い出など書く内に、一度会う約束をする…。
結果的に言うと、二人は会わなかった。
イラは待ち合わせのカフェで待ち、サージャンもカフェに訪れたが…、声をかけなかった。
もどかしい!…なんて声が聞こえてきそうだが、これはこれでいいと思う。
二人が会って、お決まりのようにどんどん惹かれ合って、ブータンに旅行なんて行ったら、流行りの不倫映画になってしまう。本作の上品さが損なわれる。
イラは弁当配達人の情報から直接会社に会いに行くが、その時はもう…。
全く劇的でもない終わり方。
が、しみじみと余韻残る。
大人のラブストーリーと呼ぶまでには大人し過ぎるし、二人が直接会う事も無かったが、これは確かにお弁当の誤配から始まった“出会い”だった。
インド社会の現状も垣間見える。
あくせく働き、その一方…。
何か抱えた心の寂しさ、サージャンが家に帰って独りの食事など、インドも日本も同じなんだなぁ、と。
そういや暫く、手作りのお弁当なんて食べてないなぁ…。