「悼み方はそれぞれ。」悼む人 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
悼み方はそれぞれ。
今作の鑑賞後にさまざまな評価や原作者のコメントを読んだが、
良い部分と悪い部分が両方向で描かれているような感想を抱いた。
私はやはりこの主人公・静人の行為が完全には理解できない。
死を悼むというのは亡き人の身近にいた人間が行う行為で、全くの
赤の他人が知りもしない人間の為に現地に赴き祈りを捧げるという
のは、(巡礼者ならではの業で)観ていてやり過ぎの感が否めない。
彼の唐突な行為はその真摯な想いを分かり易く伝えてはくれない。
だから彼が不思議がられるのは当然のことで、しかしその行為には
彼なりの確固とした理由が存在し、それが亡き人の魂を平等に悼み、
かけがえのない命の尊さを心に刻んで欲しいというメッセージへと
繋がっていることは素晴らしいと思う。描き方からその両面が観て
とれる感じがした。昨今では不条理で恐ろしく残虐な事件が起こる。
その度にSNSなどで追悼の意が語られ、ニュースやインタビューで
被害者の像が語られ胸を痛めることが多いが、期を過ぎればすぐに
また次のニュースへと関心は切り替わる。亡くなって間もないのに、
それでいいのか?と思う気持ち。いつまでも留まっていてはダメだ、
と思う気持ち。死に対する受け取り方は人によっても様々だ。
人が死ぬことに何も感じない態勢でいることは一番の問題であるが、
過剰な反応で同情賛同を煽る現代の風潮にもかなり異様な面がある。
末期患者の母親は看取らないけど死を渇望する女性の命は助けたり、
真犯人を憎む家族に我が子の愛しい部分を記憶するように促したり、
静人が命と平等に向き合う姿勢は、生死と向き合う面で勉強になる。
ただ、私の持論で「忘れる」ことが弔いになることも付け加えたい。
記憶が徐々に薄れることで悲しみが和らぎ新たな一歩が踏み出せる。
(他人の死を悼むことで生きてゆける静人。母親は理解していたのね)