「何故生きているのかわからない大人たちと子どもたちのための映画」ショート・ターム masakingさんの映画レビュー(感想・評価)
何故生きているのかわからない大人たちと子どもたちのための映画
冒頭と終末にメイソンが話すエピソードが対照的で、この物語の入り口と出口のトーンをそれぞれに決定付けている。この構成だけでよくできたシナリオであると感じられた。
鑑賞する以前は、自傷行為とは、自己存在への疑問を痛みで実感するためのものであるとぼんやり思っていたが、グレイスが「流れ出す血を見ている間だけは辛い現実を忘れられた」と語っていたことからもわかるように、そんなに単純な行動ではないのだと自らの浅学を恥じた。
施設の中心的スタッフとして、子どもたちの自立を少しでも手助けしようと献身性を見せるグレイスとメイソンだが、実は彼ら自身が心に大きな傷を負ったり、それを誰かに救済してもらったりしながら成長していた。もうすぐ施設を出なければならないマーカスや、入所したはいいがなかなか心を開かないジェイデンとの関わりの中で、実はグレイスとメイソンが救われていた部分もあったように思う。
ラミ・マレック演じるネイトが新人スタッフとしての挨拶で「可哀想な子どもたちを助けるために」と失言してしまうのだが、「〜してあげる」意識でいるうちは、きっと誰とも心から関わり合うことはできないのだ。
何故ならあの施設にいる子どもたちは、自分がこの世界に欠かせない一人であることを実感したいからだ。だから、スタッフだろうが誰だろうが、自分を必要としてくれる相手に、実は最も信頼を寄せるのではないだろうか。
メイソンの冒頭エピソードはおかしくも悲しいオチだった。終末のマーカスのエピソードは微笑ましく希望に満ちていた。グレイスとの心の葛藤を乗り越えて、メイソンもまた、施設の子どもたちに救われたのだと思う。
同じような日常を繰り返す中に、ほんのわずかな絶望や希望、悲しみとおかしさを掬い取るような、優しい映画だった。宣伝チラシから、ダークでシュールなSFだと思って何年も観る気にならなかった自分が不思議でならない(笑)。