サムライフ : インタビュー
三浦貴大&松岡茉優、5人の“戦隊ヒーロー”仲間と作り上げた「サムライフ」
2004年、長野県・上田市で、全財産725円から“理想の学校作り”に乗り出した1人の元高校教師がいた。NPO法人「侍学園スクオーラ・今人」の設立者・長岡秀貴氏。そして、彼の無謀ともいえる夢に引きつけられ集まった若者4人。まるで5人組の戦隊ヒーローのような彼らの熱い思いが、町中に伝染していく実話を描き出した青春ノンフィクション映画「サムライフ」。実在の人物・ナガオカを熱演した三浦貴大、仲間のひとり・ユミを演じた松岡茉優。この2人もまた、“ナガオカ”という男に引きつけられた若者たちだった。(取材・文・写真/山崎佐保子)
「コドモ警察」「しあわせのパン」などをプロデュースしてきた森谷雄監督をはじめ、“自分で生き方を決める学校”を創立する夢を実現させた長岡氏の自伝に心打たれた人々が、熱い思いをつないで映画化にこぎつけた作品。三浦は脚本を手渡された時点で、これが実話に基づいたストーリーであることを知らなかったという。
「脚本を読んで、ナガオカという人物は自分とちょっと似ている部分があるなと思いました。僕が大学の頃に勉強していたのは、精神保健福祉士という精神に障がいを抱えた人々をサポートする仕事。その頃に思っていたことと、ナガオカが思っていることがすごく似てるなって思ったんです。その後に実在の人物だと知って、『マジか!』と驚きました。世界には面白い人がいるんだなって、ぜひやってみたいなと思ったのが最初の印象でした」
半身不随や恩師の死を乗り越え、高校教師になった青年ナガオカ。やがて学校に行けない子どもたちのための学校を作ろうと、元教え子ら4人の仲間や妻に支えられながら、ショットバー開業や自伝本の自費出版といった方法で資金集めに奔走する。本作の実現に7年の歳月がかかったのは、森谷監督がナガオカを演じられる人物になかなか出会えなかったことも大きいという。三浦に出会った瞬間、森谷監督の中で「ナガオカだ!」という直感が走ったという。
松岡も、これに深く賛同する。「三浦さんて本当に不思議な人なんです。実は初めてお会いする前は、何となく怖そうなイメージがあったんですけど、お会いしてみたら底抜けに優しいんですよ。人への優しさをこれだけ持っている人ならきっと、長岡先生を演じられるんだろうなって思いました。実際の長岡先生とも雰囲気が似ているし、いつも2人で『そうそう』って意気投合してるし。兄弟とも親子とも違うけど、2人の姿が重なる。私の中では3人の長岡先生がいるんです。ご本人と三浦さんと監督。2人とも長岡先生が好きすぎて、長岡先生になっちゃったみたいな感じ」と共演者も納得のシンクロ率だった。
三浦と松岡のほか、「ソフトボーイ」の加治将樹、「ガチバンZ 代理戦争」の柾木玲弥、「好きっていいなよ。」の山本涼介が「サムライフ」5人組のメンバー。彼らの構成が、戦隊ヒーローの“鋳型”(いがた)を踏襲していることに気づく人は少ないかもしれない。この5人にはそれぞれのテーマカラーがさりげなく衣装や小道具に配されていて、これを意識して見るのも面白い。何より劇中の5人の仲睦まじい雰囲気は、現場の外でも5人が仲間であり続けたことが大きい。
「台本に忠実に演じることは大前提だけど、その場で生まれた空気も大事にやっていました」という松岡。最も驚いたことは、「三浦さんのどの世代にもすーっと溶け込んじゃうところ。同世代の瞬間もあれば、先生の瞬間もあって。実際の長岡先生も『いくつなんだろう?』というくらい若い人なんです」と不思議そう。三浦は、「それは僕の精神年齢が10歳くらいで止まっているせい(笑)」と笑いながら、「5人でいるとカットがかかってもあのまんま。ずっとみんなでワーワーやっている感じでした」と和気あいあいとした現場の空気が伝わってくる。
三浦と松岡は、映画「リトル・フォレスト」でも共演しているが、現場での接点はほぼ皆無だった。三浦は、「全然会わなかったよね。稲穂の中で一瞬スルッとすれ違っただけ(笑)。なのでお芝居でガッツリ組んだのはこちらが先。そして今はただの仲良しだよね」という。小学生から女優を続けてきた松岡と、社会人から突然俳優に転向した三浦。松岡は、正反対ともいえる三浦のキャリアに興味津々で「普通に大学を卒業して社会人としてお仕事もしていて、いきなり俳優になっちゃったって、三浦さんは本当に面白い人生を歩んできたのだなって思う。三浦さんの魅力って、きっとそういう色々な経験なんだと思います」。すると三浦は、「無いものねだりだけど僕は松岡さんがうらやましい。僕は23歳から芝居を始めたので、10代の頃に10代の精神状態で芝居をしてみたかったなとも思う」と互いの存在が良い刺激となっていた。
それはまるで、「サムライフ」の5人組のような関係性。松岡は、「これが本当にあった話で、今でも学校を続けている。本当に長岡先生ご本人が“引力”のある人で、引きつけられてしまうんですよ。たくさんの人に届いてほしいのはもちろん、長岡先生が映画を見た時に、嘘じゃない空間を作りたかった。届いていたらうれしいです」と思いを込める。すると三浦が、「先生、完成した映画を見て泣いていた。『一緒に学校を作っていた5人との風景とか、本当に自分がそこにいるような感じで、そこにナガオカがいた』って言ってくれました」と、何よりその言葉は三浦がナガオカという役を生きた証拠になった。
これからも「進撃の巨人」「マンガ肉と僕」など、ますます俳優として注目を浴びていくであろう三浦。「僕も長岡先生も、基本的に“面白いこと”をやろうというスタンスなんです。長岡先生も『やろう!』と思ったことは絶対にやっちゃう人。僕自身、役者よりも面白いことが見つかったら、役者をやめちゃってもいいやって感じです。あ、やっぱり長岡先生と似てるかな?」と笑うあどけない表情は、まさにゼロから人生を切り拓いた長岡氏を思わせた。