妻への家路のレビュー・感想・評価
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空白のある記憶!? 切り取られた写真の1人の思いとは?
1970年代の中国。
駅の雑踏、ひしめき合う人々
列車が通り抜けるざわめきのなか、
必死で夫に呼びかけて叫ぶ女性の姿。
振り向いた男性。
引き裂かれるように収容所に連れて行かれる
夫。
過ぎ去る年月のなかで忘れゆく夫の記憶。
何十通もの、折り重なる手紙に
夫から妻に対する一生添い遂げたい
愛情が込められていました。
自分を忘れた悲しい出来事を信じたくない
夫。
アルバムを見返す娘さんに切ない感情が
ありました。
家族でありながら、自分が夫だと妻に
言えないもどかしい気持ちが表現されていました。
記憶障害が治らないまま、ストーリーは
終わってしまったけど、家族で一緒に
いるだけで幸せだと思いたい、、
そんな古い時代の家族愛を感じる作品でした。
文化大革命は終わらない
文化大革命で、右派とされ逮捕された夫、文革が収束し、帰宅するがその長い間に妻は心因性の記憶障害となり、毎日待ち続ける夫を認識できない。
文化大革命はまさ、小説より奇なり、の、最たるもので、本当にありえないようなことがあのように広大な土地のあちこちで非常に長きに渡り起きた、そのことは知れば知るほど驚きしかない。文革収束後も、おそらく今も、このような悲劇、惨状幾多と思われる。終始物静かな展開で、コンリーが美しく凛としながらも次第に老けていく姿に、心から文革に人生を掻き乱された人々の思いを深くかんじる。夫が妻の記憶をよりもどしたい一心で自ら調律し演奏する自宅の古いピアノの音色も、か細口小さな音でとてももの悲しい。文革で逮捕収容された人々を迫害したりその時権力を振るうたものもまた終息後に取り調べを受け、右派も左派もその時の政治に翻弄されいつでもひっくり返される。コンリーが演じる妻は変わらず、バレエで主役を踊りたい娘に、当時も、今も、兵士の役もよいよ、と静かにさとす。
溢れる思い怒り悲しみをこのように静謐に表現するコンリー、チャンイーモウ渾身の作品。しかも、Unext見放題に含まれておりたくさんの方がみることができる、ということは素晴らしいこと。
2021年未だに終わらない文革の悲劇と、今もたいして変わらないまたはよりひどい世界に我々も生きていることを実感する。
余りに切ないラストは泣くよりも先に胸にズシーンと来ます。涙は後から湧いてきます。
①斬新な脚本だ。5日に帰ってくる筈の夫を待ち続ける妻。帰ってきた自分を認識してくれず親切な隣人としてしか接してくれない妻を、それでも見守り続ける夫。互いを想い合っている事は確かなのに、すぐ近くにいるのに、二人は決して夫婦に戻れない。②アメリカ映画や日本映画では最後に妻の記憶が戻ってハッピーエンドにするかも知れない。しかし、この映画の場合、そのようなハッピーエンドにしてしまうと中国国民をさんざん苦しめた文化大革命というものを時効にしてしまう。そうしてはならないという監督以下中国の映画人の想いをラストシーンに見る気がする。③コン・リーはさすが中国を代表する女優であることを再認識させる名演。
ずっと傍に
1970年代の中国。文化大革命が終結し、反分子だった夫は解放され、妻の待つ家へ急ぐ。
が、妻は夫を待ち続けた心労から記憶障害となり、夫の顔を覚えておらず…。
見てたらマーティン・ランドー&エレン・バースティンの大人のラブストーリー『やさしい嘘と贈り物』をうっすら思い出し、あちらは心温まる感動的な話だったが、こちらは何と切ない話…。
別に妻は夫の事を忘れた訳ではない。覚えていないだけ。なので、夫の名を書いたプラカードを持って船場で帰りを待つ。
それを時に傍らで、時に陰からひっそり見守る夫。この時の夫の心情足るや、同情なんて言葉で軽々しく言えやしない。
ここに居るのに、妻は自分の事を認識出来ない。
このもどかしさ、哀しさ、切なさ…。
無論夫は、自分の事を思い出して貰おうとあの手この手奮闘する。
向かいの家に住んで、親切なご近所さんとなって接する。
手紙で帰ってくる日を伝えたり、貯まった手紙を代読したり。
中でも、ピアノを弾くシーンには胸打った。やっと、思い出した…かと思いきや…。
夫婦には娘が居る。
当初娘は父を毛嫌いしていた。ずっと一緒に居た事も無く、父は居ないも同然だった。
そんな父を待ち続ける母も理解出来なかった。
ある日を境に母とはぎくしゃくした関係に。
父が戻ってきて、最初は抵抗あったものの、父のひたむきな姿に心を開いていく。
母に対して本音。
そんな娘を、父は優しく諭す。
この娘の存在も好スパイスになっていた。
コン・リーはさすがの名演だが、夫役のチェン・ダオミンが忘れ難い。哀愁と優しさ滲ませる絶品の佇まい。
娘役チャン・ホエウェンも。
『HERO』『LOVERS』など武侠アクションで人気のチャン・イーモウだが、やはり『あの子を探して』『初恋のきた道』などしみじみさせるヒューマン・ドラマにこそ手腕を振るう。
約半世紀前の異国の政治的背景など分からない。
でも、それをある夫婦の物語として訴える。
悲劇的な現実によって翻弄され、引き裂かれ、切なく哀しい。
が、それと同時に、温もりも感じた。
例え覚えていなくとも、もう二度と離れず、ずっと寄り添い、見守り続けるーーー。
「妻への家路」を観て・・
配偶者が認知症で苦しむドラマは多いが、文化大革命が絡んだのは無いと思う。文革は実質的には中国共産党の権力争いで、知識人の多くが粛清された。主人公は処刑こそされなかったが、長いこと服役して文革が終わって釈放された。そして帰宅すると妻は若年性認知症になっていた。ひとり娘はかつてバレエ団だったが、今は紡績工場の寮にいる。娘の丹丹が親思いで可愛くてとても良い。踊りも上手だ。認知症は進行する病気でハッピーエンドは望めないが、主人公が刑務所で書いた手紙の量が服役の期間を物語る・・中国映画も言論統制の枠の中で、民衆の生活感が出ていて独特な感じだ。泣ける映画。2014年の作品。
病気なんだ、分かってあげなさい
映画「妻への家路」(チャン・イーモウ監督)から。
久しぶりに、切ない・・という感情が込み上げてきた。
「中国映画」だからという、特別な偏見ではなく、
「ハッピーエンドではない」結末に対して、
でも、これが現実・・というリアル感が私の胸を締め付けた。
娯楽要素の強い映画なら、最後には、正義は必ず勝つし、
辛い体験をしても、最後にはホッとさせられる結末が待っている。
しかし、この作品は、そんな私の甘い望みを打ち砕くように、
記憶障害で夫を他人だと思い込む妻は、最後まで治らず、
いつか妻の記憶が戻ることを信じて寄り添い続ける夫の愛情も、
最後の最後まで、変わらない。
この物語の起承転結が、私に「切ない」という言葉を吐かせた。
そんな母親の様子に、イライラを募らせている娘に対して、
父親はこう諭す。「病気なんだ、分かってあげなさい」
自分が、愛する妻に「夫と認識されていない」にも関わらず、
いつまでも、そばにいてあげたいと思う男心が、本当に切ない。
今まで、映画は「ハッピーエンド大好き」と言い放ってきたが、
たまには「リアル感」のある、こういった作品もいいな、と思う。
ハッピーエンドじゃないんだけど、心が温まるのは、
どんな環境になって、人が人としての尊厳を守っているから、
そう思わずにはいられない作品だった。
裏切られるラスト
こういう手の話って、普通最後は記憶を取り戻してめでたしめでたし、なんだけど、この映画は違った。
記憶をなくして夫のことがわからなくった妻は、夫をただの親切な人と思い込み、いつまでも夫の帰りを待ち続ける…という切ないストーリー。
娘とのわだかまりもあり、家族が一つになるまでを描いた作品。
久しぶりに会えたのに、会えない。
夫婦は「再会」できないまま歳をとり、ラストシーンでは年老いた妻が同じく年老いた夫の横で、自分の記憶の中の「夫」を待っている。
この構図、何なんだろう。
きっとあのシーンの後も、二人は「今日も帰ってこなかったね」と言いながら自宅に帰り、妻は夫の、夫は「妻の中の自分」の帰りを待つ…
まさに、妻への家路 だ。
添い遂げる。
「文革が夫婦に齎した悲劇を描いたメロドラマ」だとは思うのだが、
例えば舞台を中国だとか記憶障害を心因性だと決めつけず観てみると、
アルツハイマーを発症した夫や妻を介護する家族の話にも観てとれる。
愛する人の脳裏からすっぽりと抜けてしまった自分の存在。
すぐ隣にいる自分を探している妻の姿に何度も打ちのめされる夫。
こんな哀しみはないだろうと思う反面で、それでも愛情を持ち続けて
日々の介護や面倒を看るのが家族なのだ。ふと我に返り想い出す日が
くるかもしれない。今作の夫の毎日にはそんな期待が籠っている。
文革終結の3年前、脱走して妻子に逢いにきた夫を娘が党に密告する、
その過程も切ない。娘には優しい父親の記憶すらない。ただ反分子と
してしか捉えられない当時の娘の行動を母親は恨み、娘を追い出して
現在の記憶を封印する。その和解を促すのも還ってきた父なのである。
娘のバレエを二人で見るシーン。夫の手紙を読み聞かせて貰うシーン。
どこかで記憶が戻らないかと、期待しながらこちらも見守るのだが…
淡々と描かれる家族の日常に文革時の緊張はなく、大きな事件もない。
ただゆったりと流れる時間の中で妻と夫が隣人の会話を交わし、時々
逢うような設定だ。プラカードを掲げ駅で夫の帰りを待つ妻を、静かに
隣りで見守る夫の姿に涙が溢れるが、添い遂げるとはこういうことか
と深く想い入る部分がある。哀しくも温かみを感じさせる稀有な物語。
(お玉を持って方さんを訪ねるシーンは少し笑えるが、それ以外は皆無)
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