「【中国の文化大革命により、人生を狂わされた夫婦の余りにも哀しく切ない作品。だが、究極の確固たる夫婦愛の姿を描く作品でもある。】」妻への家路 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【中国の文化大革命により、人生を狂わされた夫婦の余りにも哀しく切ない作品。だが、究極の確固たる夫婦愛の姿を描く作品でもある。】
■1977年、文化大革命が終結。
解放された右翼分子として囚われていた夫、陸焉識(ルー・イエンシー)(チェン・ダオミン)は20年ぶりに帰宅するが、待ちすぎた妻、馮婉玉(フォン・ワンイー)(コン・リー)は心労のあまり夫の記憶を失っていた・・。
夫は他人として向かいの家に住み、娘丹丹(ダンダン)(チャン・ホエウェン)の助けを借りながら、優しく妻に寄り添って自分を思い出してもらおうと奮闘するが…。
◆感想<Caution! 内容に触れています。>
・妻を持つ男にとっては、切なすぎる物語である。
20年もの間、政治犯として家族と会えなかった陸焉識(ルー・イエンシー)が、文化大革命終結により、愛する妻の元に帰るも、妻は心因性記憶喪失のために自分の事が分からなかった・・。
ー この設定は、実に切ない。
だが、夫、陸焉識(ルー・イエンシー)を演じたチェン・ダオミンは、哀しみを抑えつつ、妻が自分の事を思い出してくれるために、様々な事をする。
それは、ピアノ好きの自分のためにピアノ調律を頼んだ妻の行為を見て、ピアノ調律師として、妻の前でピアノを弾いたり・・。
獄中で書いた手紙を、段ボール箱一杯に詰めて、妻に届け一つ一つ読んであげたり・・。
そして、その手紙には妻と娘を想う気持ちが詰まっている。-
■切なすぎるシーン
・妻、馮婉玉(フォン・ワンイー)が、政治犯が戻って来る駅の階段の下で、陸焉識と書いたプラカードを持って、最後の一人が階段を下りるまで待っているシーン。
彼女の脇には、陸焉識が立っているのに・・。
そして、妻は陸焉識が階段を下りてきても気が付かない・・。
・ピアノ調律師として、妻の前で思い出の曲を弾く、夫、陸焉識。妻も思い出しかけるが、最後に夫を、彼がいない間、面倒を見ていた“方”と言う男と混同し、拒絶するシーン。
・そして、陸焉識が、妻をお玉で叩いていたという“方”にお玉を持って会いに行くシーン。
“方”も又、文化大革命時の罪の為か、家には居ない・・。
肩を落として去る陸焉識の後ろ姿。
・数年が過ぎ、すっかり年老いた夫、陸焉識と妻、馮婉玉が、雪が降る中、誰も降りてこない駅の階段の下で、陸焉識を待つシーン・・。
<今作は、文化大革命により人生を狂わされた夫婦の哀切極まりない物語である。だが、この作品には確固たる夫婦愛が描かれている。
夫の記憶を失っても、いつかは帰って来ると信じる妻の姿。妻の傍に帰って来ていながらも、妻に認知されず、必死に妻の記憶を取り戻そうとする夫の姿。
今作は究極の夫婦愛を描いた作品である。>
■独裁国家で映画監督として奮闘している映画監督は多数いる。今作までのチャン・イーモウ監督や、イランのジャファール・パナヒ監督である。
チャン・イーモウ監督は今作後、マット・デイモン主演の「グレート・ウォール」や、「SHADOW 影武者」などを発表し、国際的に活躍をしている。
私は両作とも劇場で鑑賞し、満足した。
何が言いたいかというと、チャン・イーモウ監督の国政を見ながらの、映画製作姿勢を巧みに変える強かさに、驚くのである。
近年、中国の体制に迎合しているという批判は良く聞くが、私はそれを否定しない。
凄い映画監督であると、素直に思うのからである。