「ずっと傍に」妻への家路 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ずっと傍に
1970年代の中国。文化大革命が終結し、反分子だった夫は解放され、妻の待つ家へ急ぐ。
が、妻は夫を待ち続けた心労から記憶障害となり、夫の顔を覚えておらず…。
見てたらマーティン・ランドー&エレン・バースティンの大人のラブストーリー『やさしい嘘と贈り物』をうっすら思い出し、あちらは心温まる感動的な話だったが、こちらは何と切ない話…。
別に妻は夫の事を忘れた訳ではない。覚えていないだけ。なので、夫の名を書いたプラカードを持って船場で帰りを待つ。
それを時に傍らで、時に陰からひっそり見守る夫。この時の夫の心情足るや、同情なんて言葉で軽々しく言えやしない。
ここに居るのに、妻は自分の事を認識出来ない。
このもどかしさ、哀しさ、切なさ…。
無論夫は、自分の事を思い出して貰おうとあの手この手奮闘する。
向かいの家に住んで、親切なご近所さんとなって接する。
手紙で帰ってくる日を伝えたり、貯まった手紙を代読したり。
中でも、ピアノを弾くシーンには胸打った。やっと、思い出した…かと思いきや…。
夫婦には娘が居る。
当初娘は父を毛嫌いしていた。ずっと一緒に居た事も無く、父は居ないも同然だった。
そんな父を待ち続ける母も理解出来なかった。
ある日を境に母とはぎくしゃくした関係に。
父が戻ってきて、最初は抵抗あったものの、父のひたむきな姿に心を開いていく。
母に対して本音。
そんな娘を、父は優しく諭す。
この娘の存在も好スパイスになっていた。
コン・リーはさすがの名演だが、夫役のチェン・ダオミンが忘れ難い。哀愁と優しさ滲ませる絶品の佇まい。
娘役チャン・ホエウェンも。
『HERO』『LOVERS』など武侠アクションで人気のチャン・イーモウだが、やはり『あの子を探して』『初恋のきた道』などしみじみさせるヒューマン・ドラマにこそ手腕を振るう。
約半世紀前の異国の政治的背景など分からない。
でも、それをある夫婦の物語として訴える。
悲劇的な現実によって翻弄され、引き裂かれ、切なく哀しい。
が、それと同時に、温もりも感じた。
例え覚えていなくとも、もう二度と離れず、ずっと寄り添い、見守り続けるーーー。