「タイトルなし(ネタバレ)」イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密 spinx003さんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
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本作は、第二次世界大戦中にドイツ軍の暗号「エニグマ」の解読に挑んだ数学者アラン・チューリングの功績と、その裏にあった孤独な人生を描いた作品である。派手な戦闘は描かれないが、静かな緊張感と重い選択の連続が、戦争の別の側面を浮かび上がらせる。
自己の感情を表現することも、他者の感情を汲み取ることも苦手なチューリングは、天才であるがゆえに周囲と衝突を繰り返す。しかし、暗号解読機の完成によって戦局を大きく動かし、多くの命を救った事実は疑いようがない。一方で、解読の成功が露見すれば暗号が変更されてしまうため、救える命をあえて見捨てるという非情な判断を迫られる。ここで描かれる選択は、いわゆるトロッコ問題そのものであり、「正しさ」とは何かを観る者に突きつけてくる。
戦後、チューリングは同性愛者であることを理由に罪に問われ、尊厳を奪われていく。国家に多大な貢献をした人物が、社会の偏見によって切り捨てられていく結末は非常に重く、やりきれない。警察が正義として捜査を行うことも、周囲が彼の存在を危険視することも、当時の価値観を思えば理解できてしまうからこそ苦しい。
本作は、戦争、チーム、性別など、価値観の違いを認め合う難しさが、ついには一人の天才を追い詰めてしまった事実を静かに描く。英国が50年以上隠し続けてきた物語は、孤独な数学者の人生であった。
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