「一人の人間が呑み込まれ支配される過程が描かれる作品。」ビッグ・アイズ Opportunity Costさんの映画レビュー(感想・評価)
一人の人間が呑み込まれ支配される過程が描かれる作品。
良かった。
60年代、実際に起きたゴーストペインター事件を基に。
芸術家の妻が、詐欺師の夫に呑み込まれ支配される過程を丁寧に描いています。
入口は「便宜上」という軽い感じで。
その後は回数と期間をかけて既成事実に。
表の評価を確立すると同時に、ゴースト側を社会から隔離し裏に追いやってしまう。
関係性が崩れそうになると、共犯関係を強調し社会の批判/弾圧をチラつかせ必要以上に恐怖を煽る。
一人の人間が呑み込まれ支配される過程が実感出来ました。
特筆すべきはウォルター・キーンを演じるクリストフ・ヴァルツ。
彼のニヤケ顔、スイッチが入った際の話術/身振り手振り。
弱者に見せる本当の顔。
根っからの詐欺師を体現しており、話全体に納得感、そしてコメディ要素を付加。
醸し出す小者感も含めて思わず笑う場面が多々ありました。
特に終盤、裁判所で見せる一連の茶番。
権力者、その場の実権を握る人物への媚びた顔。
観衆を呑み込み自身側に取り込む話術。
…からの窮地に陥った際の最終手段。
上映時間106分溜まりに溜まった気持ちが一気に解放される素晴らしい瞬間でした。
一人の人間が呑み込まれ支配される過程が描かれる本作。
作中の芸術品の扱いも感慨深く。
通して描かれるのは芸術の不確かさ。
誰もが確かなモノを持たない中で跋扈する権威主義と物語性。
専門家が評価したから、又は感動的な逸話があるから。
作品自体ではなく、作品に付随する評価や物語に惹かれ手に取る姿は印象的でした。
自ずと昨年の佐村河内事件を連想させる題材ですが。
鑑賞後「ゴースト側も詐欺の片棒を担いでいたんでしょ」とは簡単に言え難くなる。
見え難い側面を映し出した作品だと思います。
オススメです。
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