「いい作品ではあるが、一点物の作品ではない」繕い裁つ人 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
いい作品ではあるが、一点物の作品ではない
南洋裁店。
時代に取り残されたような老舗の町の仕立て屋。
先代である祖母から受け継ぎ、クラシカルなミシンで洋服を作る2代目女店主。
モットーは、着た人が一生添い遂げられる洋服を作る。
彼女が仕立てた洋服に魅了された人は多い。
馴染み客やブランド化を提案する百貨店の営業マン。
職人気質の主人公と彼女を取り巻く、“洋服”人間模様。
店主の性格は例えるなら、“頑固ジジイ”。
それでいて、洋服以外の事はほとんど何も出来ないほど不器用。お茶もろくに入れられず、起きるのは昼近く。
が、作る洋服への拘りは強い。ブランド化も拒否する。
それも分かる気がする。
ブランド化して全国に売り出すのも商法の一つだ。
でも、一人の客の為に丁寧に、端整込めて一点物の洋服を作るのもプロだ。
全員が全員、金儲けの為に洋服を作ってる訳ではない。
そんな彼女にも人知れず悩みが。
先代の存在。
町の人々に愛された先代の洋服。先代、先代…と、よく口にされる。
彼女の洋服も愛されているが、やはりそれも先代の洋服あっての事なのか…?
そんな時、営業マンが自分の洋服に惚れ込んだ理由、着てくれた人々の思いを知って…。
洋服に込められた各々の思い。
温かく、優しく、しみじみと。
中谷美紀の好演。
2015年の作品。黒木華、杉咲花、永野芽郁らその後活躍する若手女優の共演。
デザインされた洋服の見事さ。
まるでその洋服そのもののような、作品も上品でクラシカル。
いい作品である。
いい作品ではあるが…、
それ以上でも以下でもない。
静かで淡々とした作りは作品に合ってはいるが、そんな中にもグッと惹き付けられるものやメリハリに欠け、ちと話に吸引力が弱かった。
正直、少々退屈にも…。
良くも悪くもいつもの三島ワールド。
善人しか出てこないファンタジーの世界。
『幼な子われらに生まれ』の力作演出は、あれ一点物だったのか…?