繕い裁つ人のレビュー・感想・評価
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【”誰かのための生涯の一着”今作は、オーダーメイドの一着を着る事の喜びと、それを作る事の難しさと拘りを持つ仕立て屋の女性の姿を、静謐なタッチで描いた作品である。】
ー 中谷美紀さんは、最近は作家としてもご活躍されているが、今作を観ると矢張り清楚で美しい和風美人である。
今作は、そんな彼女が、祖母から引き継いだこだわりの仕立て屋を品性高く演じている作品である。-
◆感想
・街中から洋裁店が消えて行ったのは、いつ頃だろうか。今作の舞台になった神戸では、今でもあるのだろうか。
・洋裁店で服を作ると、店主が手際よく採寸し、型紙を作り布を裁ち、それを一着の服に仕立て上げる。
普通は、その一連の流れを見る事は叶わないが(そもそも、オーダーメイドが出来上がるには、日数がかかる。)出来上がった服は、今作で年老いた男性が言うように身体に見事にフィットして、当然の如く着心地が良い。
・私が、”吊るし”を買わない理由は、経済的だからである。
イニシャルコストは確かに高いが、今作でも描かれているように一人一人の型紙があるので、身体の変化に直しを依頼すれば対応してくれて、ランニングコストで考えても経済的であるし、何よりも着やすい服を長年着れるという、安心感があるからである。
・今作が良いのは、そのような仕立て屋さん、しかも拘りのある仕立て屋さんであるイチエ(中谷美紀)の姿と、彼女の仕事に敬意を表しつつブランド化を持ちかける百貨店勤めの藤井(三浦貴大)の交流が何だか素敵だからである。
藤井はブランド化を進めると言いながら、全然ブランド化を強く勧めずに、逆に一品生産をするイチエの姿を只管に追っている所が良いのである。
■一番美しいのは、藤井の車椅子の妹(黒木華)を最初はイチエが恋人と勘違いするも、彼女の結婚式の際に、足が不自由になった事で引きこもりがちだった彼女を、積極的に外に出すきっかけとなった青い服の首周りの装飾の一部を使ってイチエが使って作ったウエディングドレスを着る藤井の妹の姿であろう。
正に時を越えての服の力である。
<今作では、更に30歳未満が入れない”夜会”のシーンに、今や邦画の若手女優として輝く、杉咲花さんと永野芽衣さんと小野花梨さんが高校生役(と言うか、高校生だったのかな。)が出演しているのも、嬉しい作品である。>
とても素敵な作品でした。
「モノづくり」をテーマとしつつ最後には監督の映画論に至る
本作ではまず、逆光に彩られた洋裁店の作業室の美しさが目につく。ついで洋裁店兼住居の建物、そこに連なる喫茶店、教師宅の庭等々…こうしたモノの美しさを監督は穏やかだが華やかさを秘めた色彩で映像に定着させていく。
ストーリーは洋服というモノづくりで充足した生活を送る仕立屋の女性と、彼女を取り巻くコミュニティを淡々と描いていき、そこにはほとんどドラマらしきものがない。主人公は仕立屋というより、「モノづくり」そのもの、いや「モノ自体」のように見える。
モノの美しさ、モノに纏わりついた人々の日常と記憶、モノづくりに携わる人々、モノを鑑賞し利用し慈しむ人々、モノを取り巻く理想郷をテーマにした「モノ」の映画。それが本作である。
モノとヒトとは別個独立に存在するものだが、モノが意味として発現するにはヒトが介在しなければならない。するとモノには変化がなくてもヒトが変化するとモノの意味も、つまりモノ自体も変化してしまう。
チーズケーキの味が変わったのかと尋ねる主人公に対し、店主が「創業以来変わらない味だ」と答えるのは、そうしたモノとヒト、モノづくりと社会との関係の本質を描いたものだろう。ここで「モノ」を「映画」に置き換えると、本作は監督の映画論、芸術論になると思われる。
終始ゆったりと時間が流れている良作。 デパートからブランド化の話が...
じんわりときた。 洋服って、今では安く買えたり、たくさん持っていた...
我が街を舞台とした静かで落ち着いた大人の作品だった。 「この坂どこ...
服に対する思いがあふれる美しい物語
いい作品ではあるが、一点物の作品ではない
南洋裁店。
時代に取り残されたような老舗の町の仕立て屋。
先代である祖母から受け継ぎ、クラシカルなミシンで洋服を作る2代目女店主。
モットーは、着た人が一生添い遂げられる洋服を作る。
彼女が仕立てた洋服に魅了された人は多い。
馴染み客やブランド化を提案する百貨店の営業マン。
職人気質の主人公と彼女を取り巻く、“洋服”人間模様。
店主の性格は例えるなら、“頑固ジジイ”。
それでいて、洋服以外の事はほとんど何も出来ないほど不器用。お茶もろくに入れられず、起きるのは昼近く。
が、作る洋服への拘りは強い。ブランド化も拒否する。
それも分かる気がする。
ブランド化して全国に売り出すのも商法の一つだ。
でも、一人の客の為に丁寧に、端整込めて一点物の洋服を作るのもプロだ。
全員が全員、金儲けの為に洋服を作ってる訳ではない。
そんな彼女にも人知れず悩みが。
先代の存在。
町の人々に愛された先代の洋服。先代、先代…と、よく口にされる。
彼女の洋服も愛されているが、やはりそれも先代の洋服あっての事なのか…?
そんな時、営業マンが自分の洋服に惚れ込んだ理由、着てくれた人々の思いを知って…。
洋服に込められた各々の思い。
温かく、優しく、しみじみと。
中谷美紀の好演。
2015年の作品。黒木華、杉咲花、永野芽郁らその後活躍する若手女優の共演。
デザインされた洋服の見事さ。
まるでその洋服そのもののような、作品も上品でクラシカル。
いい作品である。
いい作品ではあるが…、
それ以上でも以下でもない。
静かで淡々とした作りは作品に合ってはいるが、そんな中にもグッと惹き付けられるものやメリハリに欠け、ちと話に吸引力が弱かった。
正直、少々退屈にも…。
良くも悪くもいつもの三島ワールド。
善人しか出てこないファンタジーの世界。
『幼な子われらに生まれ』の力作演出は、あれ一点物だったのか…?
穏やかに過ぎる時間
まったり
繕い裁つ頑固じじいな女、佇まいが美しかったぁ
三島有紀子監督作品は「しあわせのパン」で虜になるも、「ぶどうのなみだ」で落とされたので、さて今度は当たり外れ一体どっちが出るのか、楽しみ半分不安半分で鑑賞してみましたが・・・今度はまた当たりの方が出ましたね。
前二作のテーマであった食から一転、今度は衣をテーマにしたのが新鮮味も加味して吉と出た印象です。
仕立て屋と言う、時代の遺物と化しつつある職業にスポットを当てたのも、大いに興味をそそられた作品でした。
相変わらずファンタジー掛かった作品ではありましたが、仕立て屋と言う職業と妙に作風がマッチした印象で、いつの間にか作品の虜になっていました。
私は特別服に興味がある訳でもないですし、服は直すぐらいなら新しいのを買ってしまう派(現代は大多数がこっち派になってしまいましたよね)なので、もう仕立て屋と言う存在そのものすら忘れていましたよ。
しかしこの映画を見ていたら、一生着れる服っていいものだなぁと、素直にそう思わされました。
夜会はさすがにどうかと思ってしまいましたが、全体的には説得力も十分で、一生物の服に憧れを抱きましたね。
今までは一張羅と言える服が紳士服の○○で2着目以降半額のスーツでも全く問題ないと思っていたんですけど(苦笑)
また中谷美紀が演じた頑固じじいと揶揄される主人公・市江の佇まいが、とにかく抜群の雰囲気を醸し出していて、思わず見惚れてしまうんですよね。
まさしく職人肌、でも他は何も出来ない辺りのギャップが妙に可愛らしかったぁ。
しかし好物のチーズケーキをホールごと食べる豪快さにはビックリ、でも人はどこかで息抜きをしなければ生きていけない生き物ですから、彼女にはあれが必要なんでしょうね。
チーズケーキの味に関するエピソードは、何気に印象的でした、話の持って行き方が絶妙です!
しかし人が服を美しく見せるのではなく、服が人を美しく見せる、何かとてもいい話でしたね。
市江の苦悩・葛藤から辿り着いた結末にも、思わず納得、後半から登場の黒木華の使い方も完璧でした。
大人達との対比的に使われた女子高生3人組が、杉咲花、小野花梨、永野芽郁だったのも何気に豪華でしたね。
まあ少々あざとさは目に着く作品でしたけど、大人が楽しめる、とても味わい深い映画だったなと思いましたよ。
静けさの中
静かで美しく丁寧。
衣擦れの音や、ミシン針が布に刺し入る音、木の床に響く靴音など、普通の映画だったら邪魔になってしまう『雑音』が、この映画の中では『大切な音』となっていた。
洋服を何度も仕立て直して着る。大切にする。
とても素敵なことだ。
そして、現代ではなかなか無いこと。
モダンとされる洋服も、現代っ子にとってはダサい。
そして、高い。
ペラペラだろうと縫製が雑だろうと、安い流行の服を何十着もとっかえひっかえするのが『ファッションの中心』である今、仕立て屋どころかミシンのある家さえ珍しい。
直してまでずっと着たくなるような服とは、出会うチャンスが無い。
ときめくチャンスが無いのだ。
私は安い服でも何でも、破れたりほつれたら自分で縫うが、周囲には「え?なんで?新しいの買えばいいじゃん」とサラッと言われる。
直すこと自体がすでに『イケてない』ようだ。
そういう価値観の人も、この映画をきっかけに「こういうのも素敵だな」と思うことができれば、それこそ素敵である。
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