ポリス・ストーリー レジェンド : 映画評論・批評
2014年6月3日更新
2014年6月6日よりTOHOシネマズみゆき座ほかにてロードショー
ジャッキー・チェンが中国でたどり着いた新境地
アジアが生んだスーパースター、ジャッキー・チェンの挑戦は続いている。還暦を迎えた今、日本に向け送り出すのは人気シリーズ「ポリス・ストーリー」6作目。中国・北京のバーで大量人質事件が起き、ジャッキー演じる刑事が孤軍奮闘の末に解決する。
舞台は冬の北京。冒頭でジャッキーが涙をにじませ、銃口をこめかみにあてる。現場は閉ざされたバーの中。立てこもりの目的は何なのか。犯人はなぜジャッキーを狙ったのか。二人の過去に何があったのか。真相につながる事実を小出しで見せつつ、息詰まる交渉で観客を引っ張っていく。娯楽アクションというより、重厚な心理劇の色彩が濃い作品となった。
香港で生まれた「ポリス・ストーリー」だが、今回は正真正銘の中国映画だ。監督もスタッフも共演者も大陸出身。劇中使われる言葉も北京語。敵役に中国の人気俳優リウ・イエ、監督に北京電影学院出身の新進監督ディン・シェンを迎え、中国の観客のため、中国で撮った作品といえよう。
香港からハリウッドへ、さらに中国へ。巨大市場に足場を移したジャッキーは現在、政府の諮問機関「全国政治協商会議」の委員も務め、香港や台湾では“中国寄り”のイメージが強まっている。インターネット上でも、今回の新作に「香港生まれの『ポリス・ストーリー』ではなく、中国の『公安物語』だろう」、「ジャッキーは香港の観客を捨てたのか」などと厳しい意見が並ぶ。
“俳優ジャッキー・チェン”の存在が、本人も御しがたく巨大化したのは事実だ。さらに加齢が重くのしかかる。すでに本格的なアクションからの引退を宣言したが、客が見に来るのは「動けるジャッキー」だ。出るからには動かざるを得ない。今回も監督の求めでアクションが増え、「だまされたよ」と嘆いたという。
アクションスターから演技派へ。事あるごとに“脱皮願望”を口にしてきたジャッキー。常に自分を高め、トップを走り続けながら、たどり着いた新境地だ。
(遠海安)