劇場公開日 2014年7月11日

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「老人の身体性がテーマのコメディ」怪しい彼女 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.5老人の身体性がテーマのコメディ

2014年11月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

幸せ

 主役のシム・ウンギョンは、黙って立っているだけだとなんてことのないルックスなのだが、彼女が動きだすととても可愛らしい女性に変わるから不思議だ。とくに映画の中で振りを付けて歌うと、もうこれは本物のアイドル歌手だ。
 この女優に、70歳のおばあさんの仕草やしゃべり方をみごとに身につけさせている。このことで、彼女が周囲の注目を集める個性の持ち主になる。それとは逆に、20歳の身体に戻ったおばあさんとして、若くはつらつとした肉体に違和感と喜びを感じる演技もコミカルにやってのける。
 この映画の中で彼女は、女優シム・ウンギョンとして老婆の身体を表現しながらも、老婆オ・マルスンとして若いオ・ドゥリの身体への驚きを演じるという二重の身体性を帯びている。
 言うまでもなくこの映画は、現代社会が抱える老人の問題への視点を提示ている。しかしそれはこの身体性の問題を抜きにしては語りえないのではないだろうか。一体どの時点から老人はその年寄り臭い身のこなしをするようになるのだろうか。まだ老人ではない人々が、ある動き方、ある話し方に対して年寄りくさいと感じるのはなぜか。
 老人の身体を持つ者とそうではない者。この両者のコミュニケーションが、この主役の奇妙な経験によって語られている。ある国を語るうえでその国土と歴史を切り離せないのと同じように、人の身体もその人の歴史を表している。そしてその歴史の一回性から人々は思い出を大切に思い、家族をかけがえのないものと考える。
 母の来し方に触れ、母の気持ちに触れた息子のはちきれんばかりの想い。「ペコロスの母に会いに行く」でも描かれた、親の想いを知る子の姿がうれしくて切ない。
 主人公が老人カフェで歌った歌謡曲がとても良かった。涙腺の崩壊は避けられない、ハートフルコメディ。

佐分 利信