劇場公開日 2014年12月20日

バンクーバーの朝日 : 映画評論・批評

2014年12月9日更新

2014年12月20日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー

戦前のカナダで、野球を通じて絆を結んだ名もなき日系人の輝き

これほどまでに潔く、そして悲しい名もなき日系人の歴史があるとは思いも寄らなかった。まさにスモールベースボールの祖といえる、若者たちのひたむきな姿に胸が熱くなった。

まずはボールパークを中心とした、1900年初頭の情緒豊かな街並みに目を奪われる。オープンセットの効果は絶大で、一気に作品世界へと引き込まれていく。そこで暮らす日本人たちは、白人の差別に耐え、過酷な肉体労働に従事し、貧困と闘いながらも常に前向きで生き生きとしている。

彼らの希望が野球チーム「バンクーバー朝日」だ。地元のアマチュアリーグでは白人のパワーに歯が立たず最下位が定位置だったが、バントや盗塁など小技を絡めた戦術で活路を見いだし、優勝争いにまで絡むサクセスストーリーが実に小気味よいテンポで描かれていく。

画像1

後に太平洋戦争のぼっ発などで非情な運命が待ち受けるが、決して悲劇性が強調されるわけではない。石井裕也監督はあくまで野球を通じて培われる、あらゆる絆の大切さを前面に押し出している。前作「ぼくたちの家族」に続く起用の妻夫木聡池松壮亮をはじめ亀梨和也勝地涼上地雄輔ら登場人物それぞれの背景や家族のドラマを丹念に積み上げることで、深みのある群像劇として成立させた。

要となるプレーのシーンも捕球、送球、走塁と実に堂に入っており、野球映画としての見応えも十分。心から野球を楽しんでいる様子が感じられ、実に心地よい。彼らは二世のため、無計画に海を渡った親を恨んだこともあったかもしれない。だが、「野球がやれるなら、ここに生まれてきて良かったと思える」という妻夫木のセリフが、「朝日」に託された日系移民たちの希望を象徴的に表しているようだ。彼らが放った輝きを、いつまでも心にとどめておきたいという思いを強くした。

鈴木元

Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「バンクーバーの朝日」の作品トップへ