人生はマラソンだ! : 映画評論・批評
2014年6月10日更新
2014年6月21日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー
二番煎じではない、愛すべきオランダ製のマラソン版「フル・モンティ」
マラソン版「フル・モンティ」fromオランダ、である。みっともなくてダメダメなおっさんたちが起死回生を賭けて涙ぐましい大奮闘。笑えて泣けるヒューマンコメディ(いわゆるドラメディ)と聞けば、もう想像がつくという気がしてしまうかもしれない。しかし、ちょっと待った。これは二番煎じなんかではない。確かにある意味で想像を裏切らない映画かもしれないが、きっと想像よりずっといい。
ロッテルダムにある小さな自動車修理工場では、今日も仲よしおっさん4人組が仕事をサボって遊んでいる。ここで思い出したのは、「おかしな二人」でウォルター・マッソーが演じたオスカーとそのポーカー仲間たち。ただしオスカーたちよりもだらしなさは数段上だ。メタボな腹を揺らして、真っ昼間から職場でジャンクなスナックとタバコと酒を口にしながら、だらだらカードゲームに興じているんだから。
そんな彼らが崖っぷちに立たされる。いまや工場の命は風前の灯火なのだ。そこで経営者のギーアが思いついたのが、マラソン大会に出場した自分たちを広告に使わせ、スポンサーに金を出してもらうという妙案。だが失敗も犯した。4人全員が完走してみせる、なんて条件をつけてしまったのだ。
かくして愛すべきおっさんらが本気を出した、一世一代の闘いが始まる。それを支える家族愛と友情。4人のキャラクターそれぞれの抱える問題がきっちり描写されていくのはお約束だが、実は定石通りではないところにこそ味がある。意外にも大きな場所を占める悲劇性、思わずツッコミを入れたくなる4人のゆるさとダメさ。やり始めるとはまるといわれるマラソンの魅力や「あるある」は、走り好きにはたまらないお楽しみだろう。そして何より泣かせてくれるのが、主人公であるギーアの侠気(おとこぎ)だ。ボールを入れたのかと思うほど突き出ていたビール腹が見事に引き締まったころには、もう美おやじと言っていい。惚れる。おまけにラストが……。いや、どうなのかは映画館で味わってほしい!
(若林ゆり)