「やっと発散できた、深い悲しみ、恨む、憎む、相手のいない怒り。」ジョン・ウィック さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
やっと発散できた、深い悲しみ、恨む、憎む、相手のいない怒り。
世の中には、自分に似た人が3人はいると申します。
映画の中にも、似ているキャラがいますよね。
そんな3人を、ご紹介します。
1)『ジョン・ウィック(2014)』
ミズ・パーキンス役のエイドリアンヌ・パリッキ
2)『恋の罪(2011)』
尾沢美津子役の冨樫真
3)『蜘蛛女(1993)』
モナ・デマルコフ役のレナ・オリン
この3人、なんか似てる気がするんですよ。
時間が合わず映画館で観ることができなかった本作を、今夜やっと観ることができました。で、上記3作品をがっつり書くと、またまた目に優しくない長文になってしまうので、本作をメインにお話したいと思います。
(あらすじ)
元凄腕の殺し屋ジョン・ウイック(キアヌ・リーブス)。
愛する妻を、病で亡くします。そんな彼の元に、亡くなった奥さんから手紙と最後の贈り物が届くんです。
贈り物は、可愛い子犬です。奥さんの手紙には「(病で)長く苦しんだけど、今は癒やされている。貴方も子犬で癒やされて」と書いてあります。
号泣のジョン。
なんとか子犬と新しい生活をスタートさせようとするジョンの前に、ロシアン・マフィアのバカ息子が現れる!
バカ息子はジョンの車(69年型フォード・マスタング)が欲しいだけで、ジョンをボッコボコにし子犬を殺します。
車も奪われ、愛する奥さんと過ごした家もめちゃくちゃに!
しかも奥さんを亡くした、数日後にです。
そりゃ、元凄腕殺し屋の血が騒ぎますよね。
さて、子犬を殺されたジョンの、復讐劇が始まります。
"マトリックス"でスタントを務めた、チャド・スタエルスキーの初監督作品です。
痺れるポイントはいくつかあります。
まずは、ガン=フー(ガン=カンフー)と呼ばれる接近格闘技と銃のミックス・アクションですね。監督が元スタントマンで、絶対にアクション映画オタクなんです。香港のカンフー映画好きが窺えるし、噂では日本のアニメも大好きなんだとか。
勝手に親近感!同じ匂いがします。
だから、キアヌをどう動かしたらカッケーか、熟知しているんでしょうね。
今まで観たキアヌの中では、一番格好いいです。マトリックスを抜いて、です(笑)
あ、ガンなちゃらで思い出されるのは、私の大好きな"リベリオン"です。
リベリオンの場合はガン=カタ。そして、舞台は近未来でしたね。
なので、アクションもちょっとあり得ない感がありました。そこが格好いいと思う方も多いでしょうが、私は逆にチート(無双)過ぎる主人公のキメ顔に、思わず笑ってしまったりしたのです。
その点、本作は舞台は現代です。
確かに、派手さはリベリオンには劣るかも知れません。
マトリックスのコスプレなどをされていた、厨二の方には物足りないかも知れません。
が、私にはそのリアルさ、かなり血を流し(生身感)、奥さんを亡くして悲しむ主人公に、母性を擽られたのです。
次にストーリーの極端さです。
主人公のジョン・ウィックは、奥さんも、拘りの車も、奥さんとの思い出の詰まったスイート・ホームも、最後の奥さんの贈り物、これからの人生の"希望"となった筈の子犬ですら奪われます。
全てを失ったから、全てを破壊するんです!
ロシアン・マフィアの組織を、全滅!
マフィアのボスから、全てを奪うんです。
ええ、ALL OR NOTHINGです。
分かりやすいです。
こまけーことはいいんだよ。アクションだけに集中して欲しいんだよ。
いいです。そういうの、好きです。
最初は"子犬の為に復讐"と聞いて、ちょっと滑稽な話なのかな?って思っていました。
けど、ジョンの復讐の根底にあるのは、バカ息子に全てを奪われたことだけではないんですよね。
奥さんは、恐らく(最終的に)安楽死なんですよ。
「何故、自分の妻が?」
ジョン自身が戦うことができない"妻の病"。
凄腕の殺し屋だった自分が、何もできない。
妻を守れない。
世の理不尽さ、不条理さ。
恨む、憎む相手がいないからこそ、つらい。
誰にも、何にも向けられない、鬱積した、悲しみ、怒り。
それを、丁度現れた悪党に投影して発散!
確かにバカ息子はクソ野郎ですが、ジョンの爆発する怒りは、若干、若干、若干ですが、八つ当たり気味のように思えます。
ロシアン・マフィアのボスは、ジョンが元凄腕の殺し屋だと知っています。
やられる前にやっちまいな!とばかりに、他の殺し屋をジョンの元に送ります。
その1人がミズ・パーキンス(エイドリアンヌ・パリッキ)です。いいです。前歯のでかさがいいです(笑)
そしてジョンと関節技の応酬をしているエイドリアンヌの姿は、"蜘蛛女"のレナ・オリンを彷彿とさせます。
レナが、バックシートから運転席のジャック(ゲーリー・オールドマン)に三角締めをやりつつ、ケタタタタター!って笑うとこ。
ここ、神シーンじゃないですか?しかもレナ、網タイツ履いてますし。
ジャックが、こんなに怖い、いかにもヤバそうな、妙齢なモナの色香に迷わされたのは、やっぱりこの脚力のせいだと思う。きっと、足フェチです。
そしてこのエイドリアンヌの眼力は園子温監督"恋の罪"で、昼間は大学教授、夜は渋谷の町に立つ娼婦を演じた、冨樫真さんを彷彿とさせます。
実際に起こった殺人事件というか、恐らく佐野眞一著"東電OL殺人事件"からのインスパイアな本作は、安易に娼婦=堕ちた人生、娼婦=父親の性的虐待の影響としているところが、いまいち女性の心理面を描き切れておらず、表面的で信用できないとか思ってしまう。
"嫌われ松子の一生"ではないけれど、端から見れば堕ちていても、本人にとっては"昇華"かも知れない。
作品としてはどうかと思いますが、冨樫さんの快演は一見の価値があるのでオススメします。
"東電OL殺人事件"を題材として映画を撮るなら、なんで桐野夏生せんせの「グロテスク」
にしなかったのか!残念です。
あ、園子温監督をディスりそうになるので、本作に話を戻します。
マフィアから送り込まれる殺し屋(スナイパー)役に、ウィレム・デフォー。
久々、渋いです。
また、バカ息子がジョンの車を売りに行く、解体屋のオーナーにジョン・レグイザモ。
ちょい役なのが寂しいです。
マフィアすら入れない、殺し屋お仕事禁止!の中立的な?ホテルで、ジョンの治療をするドクターは、お久しぶりの"ランドール・ダク・キム"
そうです。"マトリックス"のキー・メイカーです。
いいです。ちょっとした配役に、光るセンス。
関連作品を思い出させて、映画好きを喜ばせる心配り。
チャド・スタエルスキー監督、注目していきます。
本作は続編が決定しているようです。
今度こそ、映画館で観たいもんですねー。