奪還者のレビュー・感想・評価
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ただの退屈なバイオレンスものなどではない
この作品はエンディングから遡って物語を理解しなければならない。そうすることでガイ・ピアース演じる主人公エリックの思いが見えてくる。
それまでは何か訳がありそうなエリックの姿と、エリックとレイの間に生まれた不思議な友情のようなものを楽しむ。
エンディングでエリックは車のトランクに積まれていた犬の死体を埋める。
この犬は恐らく妻と飼っていた犬である。
妻は10年前に自らの手で殺した。
その殺人と同時期に世界経済は崩壊し秩序の失われた世界になった。
妻を殺したにもかかわらず警察がくることもなかった。
崩壊した世界でエリックを気に止める者、繋がりを持つ者は誰もいなくなった。
人は一人で生きていくのは困難だ。もはや名無しの幽霊と似たような存在になってしまったエリックを繋ぎ止めていたものは、昔から飼っていた犬。
その犬が死んでしまったところから物語が始まる。
しかしその場面はなく、エリックが執拗に車を求める理由も明言されない。
物語の始まりに戻ってみよう。
車を奪われたエリックが自分の車を追う理由は積まれた犬であることはすでに書いた通り。
この世界での最後の繋がりであった飼い犬をなんとしても埋葬したいというのがエリックの思いだ。
少年を買いたいの?と聞いた女性が、ここでの出来事なら詳細に語ることが出来ると言い、それを聞いたエリックはひどく悲しそうな顔をする。
誰とも繋がれていないエリックは、どこかのならず者でさえその者について語れる人がいる事実に怯えたのだと思う。
医者のいる家で飼われていた犬を眺めるエリック。
犬をおいて本来の飼い主は帰ってこないのだという。
犬が居なくても繋がれる存在がいる人々とくらべ、自分は犬だけで10年過ごしてきた。その犬もすでに死んでしまっている。エリックの胸中やいかに。
そんなエリックの前に現れた男レイ。
エリックが追う三人組の一人ヘンリーの弟で、兄に見捨てられ、エリックのように誰かとの繋がりを失いそうな男。
二人は奇妙な関係でお互いを助け合うこととなり、そこからこれまた不思議な友情のようなものを芽生えさせることになる。
繋がりを失っている男と失いそうな男が互いに繋がりを持とうとするのは自然な流れだった。
兄に復讐するというレイとエリックがヘンリーのいる家を襲撃するシークエンスは実に巧妙で面白く、本作一番の見所といって言い。もちろんここまでちゃんと作品を理解できていることが前提だが。
襲撃の朝、家のそばまで来てエリックは一度自分の車に乗り込む。
最初の目的は車を取り戻すことであるわけだから、そのまま乗って帰れば終わりだ。
一瞬悩むエリックだが、レイに一緒に来ないのか?と問われ車を降りる。
本当に失ってしまった過去の繋がりを乗せている車よりも今芽生えているかもしれない繋がりを取ったとも言えるし、まだ繋がりを失いきっていないレイを助けたいと思った友情の結果とも言える。
レイは兄に復讐すると言うが、エリックはレイに兄を殺させたくない。だから、撃たずに居間へ連れてこいと指示する。
10年前に妻を殺した、誰とも繋がらなくなった自分と同じになってしまうからだ。
やはりレイを助けたい気持ちが優先する。
兄と対峙し自分を見殺しにした理由を問い詰めるレイだが、当てるつもりがない発泡がどんな結果を招くか分からないほど愚かな、バカな弟と言われているレイは兄ヘンリーに撃ち殺されてしまった。
そのあと、ヘンリーは泣きながら弟に何をした?とエリックに詰め寄る。
その姿を見たエリックは、繋がりを失ってなどいなかったレイを助けようとした結果、彼を死なせてしまった、繋がりを切ってしまったのだと気付く。
それは同時に目の前でヘンリーが10年前の自分と同じになってしまったことも意味する。
同じ苦しみを味合わせないためと、レイの復讐、その両方で、エリックは涙を浮かべながらヘンリーを撃つ。
一緒に観ていた妻は、目的の車を見つけたのにしなくていい危険な行動に出るあたり、男の悲哀ものだよねと言った。
え?女性はかすかに芽生えた友情を無視出来ちゃうものなの?と思ったが、確かに男はロマンチック馬鹿なところがあるからそうかもなと納得した。
元々は「トワイライト」で名前だけ知っていたロバート・パティンソンを「テネット」で初めて見て気になる俳優になったので鑑賞した本作だったが、頭の悪そうなパティンソンの演技は最高で、しかも内容も良い掘り出し物だった。
これを年間ベストに選んだタランティーノはセンスがいいね。
世界が滅びるとき
※ブクログからの転載です
世界経済が破綻した後のオーストラリアで、盗まれた車を奪還しようとしつこく追い回す男エリック(ガイ・ピアース)と、盗んだやつらに見捨てられたたぶん知的障害を持つ青年(兄弟のうち弟/ロバート・パティンソン)のお話。
エリックは車を取り返すためならバンバン人を殺しまくるが、全体的には静かで眠たくなっちゃう系。淡々とした乾いた映画だ。
いったいあの車に何があるのだろうと思いきやラストでそれが分かって「お、おお……?」ってなる。
それまでの倫理観が崩壊し、人の命が軽くなってしまった世の中なんだな。世界が終わるっていうのは、人類が滅亡するとか地球が爆発するとかでなくて、人命がまったく尊重されなくなったときのことかもしれない。
そういうことが言いたいんかな、って納得するには少し自分で考えないといけないから爽快感みたいなのはあんま感じないし、観る人によっては分からないまま終わってしまいそうである。
それにしても、あの純真な弟君が死ぬのは実に胸痛なのだった。彼は別に何も悪くないし。
ガイ・ピアースがはげかかってた感じあったけどあれはヅラなのか自前なのか……それはおいといて、すごく荒んだ目でさすがの演技力でありました。
ロバート・パティンソンはイケメン俳優な印象だったけど、障害のある青年をわざとらしくなくごく自然に演じててとてもすばらしかった。
まあまあだった
経済破たんした社会で、警察の機能が止まって殺人をとがめる人がいない様子がリアルだった。少年売春をあっせんするおばあさんが殺されそうになっても毅然としていたのが印象的だった。
もっと興奮したかったのに、けっこうだらだらしていて最後の方はウトウトしてしまった。犯人の弟が長々と語る場面など、さっぱり面白くなかった。
車に犬の死骸があったから取り返したかったという結末だったのだが、犯人たちが乗り捨てた車の方がずっと走行性能が高くてよさそうで、こっちでいいじゃんと思った。
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