「金が怖いのではない。金の背後にある人間のあらゆる情念が怖いのだ」紙の月 cani tsuyoさんの映画レビュー(感想・評価)
金が怖いのではない。金の背後にある人間のあらゆる情念が怖いのだ
生活に窮することのないちょっとアッパー気味の中流家庭の主婦(主人公:宮沢りえ)が、ひょんなことから年下の彼氏が出来き、彼氏のために出来心で横領をしてしまう。
横領をした主人公は彼氏との甘い幻想をキープするために横領を繰り返し堕ちていく。
いや、堕ちていくというよりタガが外れていくが正解だろう。
タガが外れてどんどん自身の欲求に対してフリーになっていくのだ。
単純に金を使うことでの快感、意見を言ってこなかった半生を解放するかのごとく正直になり、やりたいことをやる様はどこか清々しい。
その甘い「真の」生活を保つためにも彼女は横領を重ねていく。
それが終わってしまうことが運命づけられた虚構の生活だとしても。
虚構の原資を稼ぐための横領を重ねていく様は、緊迫しすぎて息が苦しくなりそうなくらいの宮沢りえの演技はさすがとしか言いようがない。
横領をかましたあとの小走りをする彼女を見ているとこっちがソワソワしちゃう。
また脇を固める、お局の小林聡美の自身を律っしまくり、歩くマニュアル人間特有の者が持つ空気や大島優子の容量のいい可愛いい後輩感も素晴らしかった。
銀行に勤めたことないが、「いるよね〜こういう人」と言いたくなる実在感。
また年下の彼氏役の池松壮亮の甘え上手なペラい男の演技も素晴らしかった。多分無垢な彼が緊迫したシーンのオアシス的箸休めになっていた。
主人公はある意味、「与えるため=隣人愛」のために金を使ったわけで、悪ではない。だからこそ怖い。正義の反対が悪ではなく、誰かの良かれとしたことも違う方向から見ると犯罪という形の社会悪になるのだ。
そんな情念を載っけさせてしまう金というものは罪深いですなぁ。
と全体的にはよかったんだが、最後いる???ラストの蛇足感には不満です。
まあエンディング曲がヴェルヴェットアンダーグラウンドだったので許すけどさ。