劇場公開日 2014年11月15日

  • 予告編を見る

「人間、“ありがち”な貪欲」紙の月 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人間、“ありがち”な貪欲

2015年6月4日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

知的

角田光代のベストセラー小説を「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督が映画化。
「桐島~」同様、多くの国内映画賞を受賞した話題作。

年下の青年との不倫に溺れ、巨額の横領を繰り返す女性銀行員の顛末。
ハッキリ言って、愚かな女の話である。
甘い時間はいつまでも続く訳なく、横領していた事も遂に発覚し…。
人生破滅の道へまっしぐら…という“ありがちな”展開だが、ただそれだけには収まらない。
人間些細な事で誘惑に負ける。
一度堕ちてしまったら中毒のようにエスカレートしていく。
それが悪いと分かってても、感覚が麻痺してもう止められない。
何故、彼女のような真面目で正義感ある人が?
少女時代のエピソードがキー。
“受けるより、与える方が幸せ”
どうやらその言葉を履き違えてしまったようだ。
履き違えた“真面目”“正義感”の意思は固い。
が、心の何処かでぶち破りたいと思っている。破滅を望む自分がいる…。
吉田大八の演出は、一見ヒロインの心情を肯定しているようで、冷たく見放している。
緊張感や、人生の歯車が狂っていく様も巧みだ。

“美しき横領犯”を宮沢りえが熱演。
ちらほら「老けた」「美貌が衰えた」と囁かれているが、かえってそれが、人生に疲れた主婦の生々しさ、艶かしさを滲み出している。
倦怠期の夫との冴えない地味な主婦の顔、不倫の恋を満喫する輝く女の顔…その演じ分けも見事。

不倫相手の池松壮亮に疑問の声も挙がってるようだが、もし演じていたのが福士蒼汰だったらどうだろう。願望を描いたファンタジーになっていた筈。
結局、こういうだらしなく、何処にでも居そうな相手と深みにハマる。
その返、池松壮亮は巧い。

大島優子は映画オリジナルキャラ。
一つ一つの言動がヒロインを堕落の道へ誘惑する。
意図的なのか故意なのか曖昧に、大島優子が絶妙な小悪魔的魅力。

キャストでとりわけ存在感を放つのが、小林聡美。
勤続25年のベテラン事務員で、銀行の局的存在。
不正や小さなミスも見逃さない“絶対正義”の象徴で、それ故上司からも扱いに困られている。
ヒロインの不審にいち早く気付き、真っ向から対立する。
クライマックスのヒロインとの価値観のぶつかり合いは、本作最大のハイライト。
助演の鑑!

人間、お金ナシには生きていけないが、またお金が人間を狂わす。
お金なんて言ってみれば、ただの紙切れ。その紙切れの為に、犯罪に手を染め、他者の命をも殺める。
一体お金って何なのか。
それでもお金は欲しい。正直な気持ち。
「ほんの少しのお金」…チャップリンの名言は心に染みるが、なかなかそうはいかない。
人間の欲は何処までも貪欲。

近大