「吉田大八、恐るべし…」紙の月 えらさんの映画レビュー(感想・評価)
吉田大八、恐るべし…
大半の人も同じであろう、僕も『桐島〜』で吉田大八監督を知った一人。ある程度期待はしていたけど、やっぱり『桐島〜』はまぐれじゃなかったんだなあと痛感。
宮沢りえ、池松壮亮、小林聡美、田辺誠一、そしてその中で決して演技が上手いとは言えない大島優子もそれぞれの役の中で完璧な役割を果たしています。特に大島優子は本当に「ハマってんなあ」と思いながら観てました。池松君が心底羨ましいです。
音楽やスローモーションの演出も的確に使ってきますよね。梨花が超えてはならないラインを超える時に特に冴え渡っています。
特にこの映画で印象的だったのは「問題を先延ばしにしようとする姿勢」です。梨花は悪いことをしていて、自覚もあるんだけど、引き返さない。話を切り出そうとはするんだけど、話をそらす。そういうのがある度にこっちは「いいぞいいぞ」とニヤついてしまうのです。これ、もしかして日本人でしか撮れない映画だったのでは?
昔、哲学者のカントは「自らが定めたルールに従って生きることこそが真の自由である」と(いうようなことを)言ったそうです。お金は所詮他人が決めたルールですから、この作品である人物が言うようにそれでは自由にはなれないのかもしれません。そのことを知らしめられた上で見る、梨花に肯定的なラストシーンにはなんとも言えない感慨がありました。金に溺れた者の話としてありがちな着地ではありますが、語り口の見事さにやられてそういうことは全く気にならなかったです。おしまい!
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