「季節の移ろいそのままに…」リトル・フォレスト 冬・春 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
季節の移ろいそのままに…
子どもを連れて、家族3人で観に行きました。
きれいで美味しい、絵葉書みたいな映画でしょ、なんてハスに構えて「夏・秋」を観たところ…おお、と鮮烈な印象を受けました。確かに、美味しい食べ物と豊かな自然がいっぱい出てきて、話はあるのかないのか…という外見なんだけれど、実はそうじゃない。これはいったい何だろう、という良い意味でのモヤモヤ、ひつかかりが、ずーっと残っていたのです。
そして、本作。エネルギッシュで彩りある季節を駆け抜け、物語の舞台は、しんしんと雪に降り込められる冬へ。
季節の移ろいそのままに、今回はぐぐーっと地下層で大きな変化が…。けれども、静謐さは変わらず。改めて、この空気感がいいなあと思いました。美味しい湯気やあたたかな火の向こうで語られる言葉は、時に厳しく、重い。はっとさせられ、じんわりと心に響き、揺り動かす。ばたばたとした日常では気付かなかったり、知らないふりをしたりで通過しそうなあれこれに、改めて目を向けさせてくれます。
橋本愛さんはじめとするキャスティングも絶妙。溌剌としているけれど、どこか翳りがあって、孤独を抱える佇まいが、大自然の中で映えます。真っ直ぐであろうとするがゆえに、時には気紛れで身勝手に見えてしまうような不器用さ…。映画には(または、良質の物語には)、陰が必要。朗らかで楽しいけれど、どこか抜き差しならない、落とし穴がいきなりポッカリ広がっているかもしれない…という不穏さが、私の思う「映画らしさ」なのだ、と改めて感じました。
そしてやっぱり、目(とお腹)を奪われるのは、食べ物のシーン。画面いっぱいに展開される料理や自然の成り立ちは、科学映画の趣きです。子どもは、初めて見た納豆作りと餅つきに魅せられたようでした。翌朝、正月から冷凍庫に眠っていた切り餅を揺り起こし、映画どおりの砂糖醤油仕立ての納豆餅にしました。私も砂糖醤油仕立ては初めてでしたが、なかなかでした。
「夏・秋」も、家族みんなで観返したくなりました。
cma