「生と死、古里に誓って」野のなななのか 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
生と死、古里に誓って
大林宣彦監督2014年の作品。
地方を舞台に市井の人々と作る“古里映画”、2012年発表の『この空の花 長岡花火物語』の姉妹編に当たる“戦争レクイエム”の、共に第2弾。
北海道・芦別市。
元町医者で現古物商の鈴木光男が92歳で息を引き取った。
葬儀の為古里に久々に家族が集う中、一人の女性・清水信子が現れる。
“なななのか(=四十九日)”の間、光男の過去が語られていく…。
現在と過去が交錯、膨大な台詞量、延々流れる音楽、目まぐるしいカット、編集、演出…この“戦争レクイエム”でさらに磨きが掛かった大林ワールドは健在。
反戦メッセージや平和への祈り、3・11後の日本への眼差しも。これら全て、『~長岡花火物語』と通じる。
そんな作風の中に、本作ならではのテーマも。
人の生死、一生。
光男が歩んだ長き人生の中でも、思い出すは…
青年時代。親友と、一人のうら若き女性。
3人の間で議論に上がる画や詩など芸術への執着、3人の関係。
1945年8月15日後も、樺太ではソ連軍が侵攻。
自由が、3人の運命が、狂わされていく…。
悲劇も、青春も、戦争の渦中に…。
余りにも壮絶。
自ら死を考えた事もあったろう。
生きるのが辛かった事もあったろう。
が、生き、子、孫、ひ孫へと繋がっていく。
ただの一つの家族としてだけではなく、生や命が伝われていく。
“大黒柱”とでも言うべき光男役の品川徹が存在を発揮。実質主演で、この名バイプレイヤーを主演で見たのは初めてかも。
共に暮らす孫に寺島咲、ひ孫に山崎紘菜。大林作品晩年の若き常連2人が、現代に生きる“希望”を魅力的に。
常連組や豪華面子の中に、大林作品初参加の常盤貴子と安達祐実。物語のキーとも言える不思議な存在で、その正体と共に、ひと際印象を残す。ちなみに常盤は兼ねてから大林監督の大ファンだったとか。
“古里映画”もしくは“戦争レクイエム”の最初の作品としてその作風が斬新であった『~長岡花火物語』、トリで執念的集大成となった『花筐/HANAGATAMI』。インパクトある2作品の間に挟まれた格好だが、本作はそれらの中でも最も“温かさ”を感じた。
人の繋がり、思い。
人は誰かの為に生き、死んでいく。誰かの為に死に、生きていく。
生死の狭間が曖昧な“なななのか”。
それがノスタルジックでファンタスティックな雰囲気をもたらす。
ラストの北海道の雄大な風景に心が洗われる。
少なくなっていく戦争を伝える人々。
多くなっていく戦争を知らない子供たち。
戦争、悲劇、災害、平和ボケ…。
が、誰かが死の前に伝え、誰かが生の間に記憶する限り、決して風化しないと信じる。
私たちの生と死、美しき古里に誓って。
近大さん
コメントへの返信有難うございます。
「この空の花 長岡花火物語」の一輪車少女役の女性がこの作品にも出演されていましたね👀
大林組(と呼んでいるかどうか分かりませんが)の役者さん達こそ、監督が亡くなられた喪失感が大きいでしょうね。
監督の魂が込められた作品を、海外の方にも是非観て頂きたいです。