トークバック 沈黙を破る女たちのレビュー・感想・評価
全2件を表示
圧倒的な存在感
同監督の「プリズン・サークル」に感銘を受けて、1週間限定の上映会に足を運んだ。新型肺炎の影響で、観客が少なかったのが残念!
映画は、女性たちのパワフルなパフォーマンスと存在感に圧倒されっぱなしだった。
彼女たちは最初から強かったわけではなく、容易には打ち明けられない過去、肉親・知人からのレイプ、ドラッグ、売春、窃盗など様々な犯罪歴やトラウマを持つ女性たちだ。
助けてくれる人もおらず、助けを求める術もなく、社会の周辺に追いやられ、非力な存在であった彼女たち。演劇を通して、自分を肯定し、自信を取り戻し、思いの丈を観客に向かって表現する。
そんな彼女たちの姿や発言に私も背中を押され、励まされ、会場を出た。
ネタとして過去を話す自分が恥ずかしくなった
元々は刑務所の受刑者が演劇を通して自身と向き合うために始まった演劇ワークショップだった。HIV患者の多くがHIVが原因で亡くなるのではなく、自殺や薬物依存、犯罪によって亡くなるという。びっくりした。
その原因を偏見や恥からくる沈黙と仮説を立てたドクターが、HIV陽性者や薬物依存など様々な背景やトラウマを抱えた女性たちを対象に活動をスタートし、自身と向き合い、トークバック(声をあげること)で健康を改善を目指す。
HIV陽性者の中には性暴力の被害者も多いという。過去や今の自分と向き合い、まして語ることは容易ではない。そんな女性たちが稽古の際にお互いの経験をシェアし、自己開示の大切さに気づいて行く。
また、舞台中に鑑賞者を巻き込んだり、舞台後にセッションを設けたり、鑑賞者が興味本位だけでいることをゆるさない。演者、鑑賞者双方にとってこれは芸術かセラピーか。
過去をネタとして消化して自分を欺くのではなく、”過去があるから今がある。後悔はない。もっか成長中””許しは自分で選択するもの”と語るほど本気で向き合い、全身で語る女性たち。こうなれる環境があることを羨ましくおもう。
人は状況に応じて演じて生きていかなきゃいけないこともあるけど、自分自身を演じるのが、一番大変かもしれない。
「AV女優の社会学」という本を読んでいる最中だけど、性を商品化している女性たちも”する理由”を饒舌に語るという。”しない理由”ではなく、”する理由”を語ることが求められてきたが故に。
気になるのは、私たちは過去を、経緯を”饒舌に語る”ことで、あたかも自身と向き合ったかのようになって、本当に向き合うことから逃げているのではないかということ。
形式的な自分語りはばれてしまう。
本当の自分を演じるのではなく、ありのまま伝えるってなんだろう、って考えさせられた映画だった。
全2件を表示