「省略の美学」ジャージー・ボーイズ 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
省略の美学
かつての流行歌は、なぜこんなにも優しく響くのか。
リリースされた当初は、最先端でエッジの効いた部分もあったのだろうが、時の流れに洗われて、エッジはすっかり丸くなっている。聞き馴れて、わかりやすい。時を経て生き残る普遍さ、たくましさ、フトコロの深さがある。
そして、この映画も、そんな丸味とフトコロの深さがある。
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イーストウッドの音楽映画で印象深いのは『バード』だろうか。
音楽への憧憬があふれている所、実在のミュージシャンの下積み・成功・挫折・家族などを描いた所など、本作と『バード』は似ている部分もある。
『バード』が、音楽の殉教者ともいうべきチャーリー・パーカーの闇…クスリや酒に溺れフラフラとむせび泣く姿を丹念に拾ったのに対し、本作は軽妙でどこか明るい。
本作のヴァリも、マフィアとの関係・借金・娘の死など、詳細にリアルに描けば暗澹となってもおかしくない話であるが、その痛みのエッジは、戯画化され、丸味を帯びて、観客に供される。省略の美学ともいうべき、詳細を刈り込んだストーリーは、わかりやすく滑らかに流れる。まるで、かつての流行歌のような軽妙さである。
かつての流行歌が、その軽妙さの中に、喜怒哀楽をうまく溶かしこんだように、この映画にも、それらがうまく溶け込んでいる。
この映画が飲み込んだ喜怒哀楽の幅は広い。主人公のヴァリだけではなく、その他ジャージーボーイたち各々の歩みも、決して否定しないフトコロの深さがある。
『バード』には唯一無二のミュージシャンであることの矜持が滲んでいたが、本作には、流行歌(わかりやすく軽妙で、それでなお心に残る)の矜持が滲んでいる。
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追1:私が、挿入歌「君の瞳に恋してる」を聴いて真っ先に思い出すのは『ディアハンター』。そして『ディアハンター』といえば本作にも出演しているC.ウォーケン。ファンにとっては、たまらない組合せだった。
ウォーケンが、かつて『キング・オブ・ニューヨーク』etcでみせたマフィア魂は、本作でも健在。そして『ペニーズ・フロム・ヘブン』etcでみせたミュージカル魂も、健在(もっと踊って欲しかったなあ)。音楽を愛するマフィア…ウォーケンにぴったりな役に、感涙。
追2:J.ペシのエピソードも楽しかった。