「全てを包み込む音楽の魅力」ジャージー・ボーイズ カタツムリンさんの映画レビュー(感想・評価)
全てを包み込む音楽の魅力
生涯ベスト1の映画は「グラン・トリノ」です。
映画館に通うきっかけになったのもこの作品でした。以来、クリント・イーストウッド監督の作品は欠かさず観てきました。
そして、今日の「ジャージー・ボーイズ」。
60年代を席巻したフランキー・ヴァリとフォー・シーズンズの4人の人生が描かれています。
イタリアやアイルランドからの移民が多いニュージャージー州出身の貧しい町で育った彼らにとって「町を出る」ことが人生を変える唯一のチャンスです。
①軍隊にはいる、②マフィアになる、③有名になる、彼らの選択肢はこの3つですが、「殺される」①と②を避けて、③の道を選びます。
とはいえ、③も狭き門。長い下積み生活を過ごします。この辺の描写が素晴らしい。
「シェリー」で一世を風靡したのが、ヴァリ28歳の時。すでに結婚もして子供もいました。遅咲きのデビューです。
彼らは一夜にして有名になり、連日のコンサートツアーで熱狂的な支持を受けます。ところが、あれほど切望した「町を出る」ことが、どれほどの犠牲払うことになるのかを思い知らされるのです。
彼らは、「悪がき仲間」でした。そして家族も、移民として移り住んだその町の絆を大事にしており、軋轢が生まれます。
監督は、有名になった彼らが、どれほどの代償を負わなければならなかったのか、スポットライトを浴びたステージに上っている彼らの内面にどれほどの影が射しているのかを描いていきます。
彼らはもがきながら、歌い続けます。
どんなに思うようにいかなくても、音楽に真摯に取り組む姿勢は変わりません。
栄光も失意も喜びも悲しみも、何もかも包み込むように、音楽が流れ、幕を閉じます。
これほど、幸福感に満ちたラストシーンはありません。
ジャージー・ボーイズ。
故郷の町の路上でハーモニーの練習をする名もなき若者の姿とともに、忘れ難い映画となりました。