「美学」ジャージー・ボーイズ あんどぅさんの映画レビュー(感想・評価)
美学
男の美学を描かせたら一級作品しか作らないクリントイーストウッドのミュージカル映画。ニュージャージーの田舎からスターへとのし上がってくバンドの物語。
いまどき、家族の時間を犠牲にして夢を追いかけるなんてのは非現実的で不幸な人生を選ぶ無謀な選択だと思われるのが普通。それでも、無謀な人間になってしまうのが男というものなんだろう。
作中でさほど夢の中身が語られるわけではない。ある意味ではそれは映画の構成ミスとも取れそうなものだけど、そのあたりマイナスにならない力を持ってるのがイーストウッド美学。彼らが何を目指していたのかは分からなくとも、彼らがそれぞれに何かに執着し、葛藤し、生きたという事実がただカッコいい。
たぶん彼らがカッコいいのは、どんな経験も過去に追いやられるくらいまっすぐに生きて、未来へと向かいながら結局は自分の過去に戻っていってしまうからだと思う。ノスタルジックに過去に捉われるのはふつうあんまりカッコいいことだとは思われないけど、ほんとのところは、それだけ強い過去がなければ、まっすぐ進むことはなかなか難しい。どんな未来も過去につながってしまう彼らの永遠。もし単に上っていくだけの話だったら、どんなに人間模様が描かれて愛が溢れていてもドラマにはならなかった。描かれた自己愛や家族愛、兄弟愛が、彼ら特有の時間の巡りのなかで生み出されてるからこそ、彼らは苦しんでいてもカッコいいんだろう。
ふつう自分ではそういう時間の巡りには気がつかない。他人が何かの形で気づくことがほとんどだけど、同時にまたそもそも気づかれないことがほとんど。この物語に光を当てたクリントイーストウッドはやっぱ最高だと思う。