「明るい残酷」グリーン・インフェルノ 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
明るい残酷
昔、食人族というイタリア映画がありました。スプラッターという言葉もなくエログロと称されました。当時、エログロとは「くだらない」映画の代名詞でした。すなわちエロやグロで観衆を釣るという意味です。むろん、この方法論は今でもたいして変わっておりません。私とてエログロ大好物です。
果たして、白人女性がジャングルの未開人に囚われ襲われるというシチュエーションは、男たちの妄想のなかで、映画のクオリティをはるかに超えたものになっていたのです。
じっさいの食人族はまことにお粗末な映画で、裸や行為のボディダブルはもちろん、群衆や俯瞰など、ロケできなかった場面で平然とダブルが使われていました。しかも違うフィルムの挿入がハッキリわかるものです。動物のはらわたを擬食するシーンにも、気持ち悪さより、エキストラに対する憐憫がありました。
それでも当時、食人族というタイトルから人々の妄想を駆り立てた成果たるや厖大なものでした。そのC調なつくりにもかかわらず、本邦で桁はずれの興行収入をあげたのです。
グリーンインフェルノは現代版食人族ですが、もはや、あの頃、私たちをとらえたエログロへの期待感はありません。世の中には残虐描写が溢れ、きょうび脳天に斧を振り下ろしても、観衆は驚きません。その慣れは残酷映画の残酷度に拍車をかけてきましたが、そんな興趣も一巡して、よもやそれをまだやろうとするのは一部の監督だけです。
でもこの映画は楽しいものでした。森林保護の活動家が、未開人に捕まる筋書きには腐心がうかがえます。いちばん楽しいのは残酷が明るいことです。パスカルロジェのマーターズでは気分が塞いでしまいましたが、ハリウッドリメイクでは笑いながら見ることができました。それと同じ理屈です。アメリカは何を撮っても明るいのです。
ただ男として正直なことを言えば主演のLorenza Izzoはきれいですが、もうすこしボリュームが欲しかったです。
余談ですがHolidaysなるホラーオムニバスが映画がありました。この映画、ホラーオムニバスとしてだけでなく、所謂オムニバス映画として、超珍しい捨て編無しの佳編揃いでした。そこで一番楽しかったラストエピソードにLorenza Izzoが出ています。この映画でのヒロイン風な彼女と違って、強気で陽気、演技もすごく巧い女優さんだと思いました。ちなみにノックノックでも連投した勢いでイーライロス監督と結婚したそうです。