「プロモーションのミスリードなどで正当な評価がされていない作品を全力で擁護させていただきます!」ジゴロ・イン・ニューヨーク さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
プロモーションのミスリードなどで正当な評価がされていない作品を全力で擁護させていただきます!
本作には、制作側ではなく単なる俳優として、ウッディ・アレンが出演しています。出演のみは、十四年振りだそうです。 タートゥーロ監督&脚本です。
でもお洒落な街並みとジャズも、小粋な会話も、女優さん達をもれなく美しく撮るとこも、明かなアレン節。絶対にアレンは、脚本に口出ししてる筈ですよね(笑)
俺イケメンじゃないしーと乗り気じゃなかったフィオラヴァンテ(タトゥーロ)なんですが、最初のお客さんであるDrパーカー(シャロン・ストーン)の前に立つと、すっかり落ち着いて色気まで漂わせる余裕を見せます。
こういう、女性の傍に立った瞬間に、雰囲気が変わる男性っていますよね。女性の傍が似合う男性。
余談ですが、寺島しのぶ主演「ヴァイブレータ」の大森南朋さんがそんな感じなので、合わせてご覧ください!
ちょい悪くて、ちょいだらしなくて、ちょい優しくて、ちょい男っぽい、ちょいセクシーみたいな。このちょいちょいの加減がいいんです。落ち着く!
そしてシャロン・ストーン。確かにお顔の皺が目立つようになりましたが、あの脚線美!足長っ!むっちゃ綺麗です。
この初めての女性と向き合う瞬間の、繊細な、微妙な距離感がリアルなんです。上手い。
恥じらうDrパーカーが思わずてんぱって、「高校の時はバージンだったの」なんて告白すること、萌え!
そうフィオラヴァンテはセクシーとかダンディ以前に、女性の心を和ませ、開かせるものを持っているんです。それこそ、ちょいちょい加減がいいんです。
Drパーカーの夫は単身赴任してて、同性のパートナーがいます。で、3Pのお相手の面接の為に、フィオラヴァンテを呼んだんです。
そんなDrパーカー曰く、フィオラヴァンテをアイスクリームで例えると「ピスタチオ味」
らしいです。ピスタチオ!なんて純文学的比喩!こういう台詞が上手いですよね、アレン。いやタトゥーロ!
ピスタチオ・フレーバーは大人気なんです。そんなこんなで、アヴィカルに出会います。
アヴィカルは敬虔なユダヤ教徒です。厳格な戒律で、自分を律した生活を送っています。
十八年前に高名なユダヤ教徒の夫と死別し、六人の子供がいます。
でも「誰も長く私の体に触れたことはない」と告白。戒律で快楽を禁じられているのです。
ネット上ではユダヤ教が難しくて、分からなかった。ユダヤ教を知らないと、本作を理解できないという意見が散見されました。でも私は、ここはメタファーだと受け取りました。
つまりアヴィカルは、自分を殺して生きている女性なんです。自分を縛り付けていた夫に象徴される男のルール(宗教)で抑圧され、自分の意思で行動できない女性=ユダヤ教の戒律で雁字搦めになってるアヴィカルです。
そんなアヴィカルをベッド(テーブル)に寝かせて、背中を優しくマッサージしようとするフィオラヴァンテ。でもアヴィカルは号泣。
私はその涙を、今まで自分を律してきた、いわば生きる基準みたいなものを、根底から崩さなくてはいけない行為への、恐怖、不安からだと思いました。直接肌に触れ合うのは、タブーだから。でも違った。涙の理由は、ラストで分かります。そんなアヴィカルに恋をする、フィオラヴァンテ。
ヴァネッサ・パラディの立ち姿が美しいんです。黒の大きなコートの中で泳ぎそうな痩せた体、Vカットのサテンの黒いパンプス、大きな瞳、小さい鼻。美しいだけなく、神秘的なんです!こんなふうに女性を撮るの得意だよね、アレン!いや、タトゥーロ!
ラストのユダヤ式裁判で、アヴィカルは告白します。男性に、直接肌に触れられた。そして泣いたと。泣いた理由を問われると、こう答えます。
「寂しかったから」
胸に刺さりました!こういう台詞が上手いよ、アレン。いや、タトゥーロ!女性の気持ちを分かってる!唸りました。
男性ばかりのユダヤ式裁判で、自分の考えをしっかり言えるようになったアヴィカルは、好意を寄せてくれる男性にも心を開きます。
本作は、アラ還のジゴロがシャロン・ストーン等の熟女といたすことばかりがクローズアップされていますが、"自分を殺して生きて来た寂しい女性が、タトゥーロ演じるジゴロとの禁断の純愛を通して、心の自由を得る物語"です。
女性には、是非この部分を観ていただきたいです。そう!本作はアラ還男性の、妄想映画ではありません。
女性の為の映画なんです!
原題はFADING GIGOLO
FADING=消えゆく、衰えるみたいな意味です。
ジゴロにとって恋は御法度。恋を知ったフィオラヴァンテは、Drパーカーとの3P中に萎えてしまいます。この時のDrパーカー&パートナーセルマのリアクションが良かった!「できないのは、恋を知ったからね!素晴らしい!おめでとう!」って。なんて素敵な、お姉様達でしょう。フィオラヴァンテの代わりに、私がお姉様達の間に挟まりたいです(笑)!
さて最後に、セルマの台詞で締めくくります。
「女性は見られてないと存在する意味がなくなるのよ」
PS
花屋のタトゥーロが、ジゴロとして女性に会いに行く前に、花を水切りするシーンが数回あります。水切りは花を美しく長持させる為に行うと思います(水はけを良くするため)。タトゥーロがしようとしてることは、女性の水切りなんだと思いました。
※今、生け花をしている母に聞いたら、花によっては水切りせず、焼いた方が良いのもある。花によって様々だとのこと。改めて、本作の奥深さを実感しました(笑)