たまこラブストーリー : 映画評論・批評
2014年4月28日更新
2014年4月26日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
山田尚子監督らしさ全開の恋愛系日常アニメ
社会現象を巻き起こした「けいおん!」の山田尚子監督の「らしさ」とは、女の子たちのちょっとしたしぐさのリアリティの積み重ねからくるかわいらしさ。かわいさをことさら主張することなく、自然にかわいく女の子を描くことができる才能の持ち主だ。「たまこラブストーリー」は、そんな山田尚子監督の「らしさ」を、存分に堪能できる作品だった。京都アニメーションによる作画力の高さもあって、キャラクターたちの自然な「演技」が実に心地良い。
本作は、タイトル通りのラブストーリー。TV版「たまこまーけっと」では描ききれなかった、主人公北白川たまこと幼なじみの大路もち蔵の恋の行方にスポットを当て、TV版では色濃かったファンタジー要素を除き、純度の高い青春ドラマに仕上げてきた。男性キャラがほとんど登場しない「けいおん!」はもちろん、本作のTV版でも踏み込まなかった男女の心の機微を今回は正面切って描写。1人の少女の成長の瞬間を鮮やかに切り取り、山田監督の新境地を見せてくれる。
監督の所属する京都アニメーションは、日常系アニメで知られる。日常系は永遠に変わらない日常の輝きを描くことに主眼を置くので、関係性に変化をもたらす事件は物語から排除される傾向がある。例えば恋愛。友人はずっと友人だし、想いを秘めた幼なじみもずっと幼なじみのまま。決して恋人や恋敵に関係性が変化しないのが日常系アニメのお約束。「けいおん!」は、まさにそんな日常系アニメの代名詞となった作品だった。
しかし、山田監督と京都アニメーションはそのお約束を壊し、恋と成長をテーマに据えてきた。にもかかわらず、京都アニメーションらしさも随所に健在で、日常系アニメのテイストを逸脱しないバランス感覚は見事。登場人物たちの揺れる想いも、恋を知って成長する姿も、和やかに時間が流れ続ける商店街の「日常」の一風景として描き、京都アニメーションらしい、そして山田尚子らしいやさしさと甘酸っぱさに包まれた、素晴らしい作品に仕上がっている。
(杉本穂高)