「さゆりマジックなんでしょうね、これは」ふしぎな岬の物語 ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)
さゆりマジックなんでしょうね、これは
タイトル通り、実に不思議な作品でした。これはプロデュースも務めた「吉永小百合マジック」なのかな。
特にドラマチックなストーリーでもない。
原作は未読ですが、元々は、短編をいくつかまとめて連作としたお話らしいですね。それを元に一本の映画としてまとめているのですね。僕はそれを知らずに観ました。
道理で、なんか、悪く言えば脚本の背骨がそもそも存在しないようなお話なんですね。
岬の端っこに人知れず佇む、ちっぽけな喫茶店。
そこに集まる、ご近所の人々。その日常を、カフェの店主である吉永さん演じる主人公を中心として、淡々と描いてゆきます。
本作の監督は成島出氏。そのタッチは、本作で登場する虹の絵のように、ほんわかした、水彩画のよう。
こういう作品の場合、自分の興味のある部分だけに着目して楽しむと言う手もありです。
僕の場合は、主人公の甥の暮らしぶりに注目してしまいました。
演じるのは阿部寛さん。
ワイルドです。
なんと、お風呂はドラム缶、下は焚き火。
いわゆる五右衛門風呂。
それも青天井、屋外です。
ほとんど、原始的とも言える暮らしぶり。
庭で焚き火を燃やして、ぼーっとしてみたりする。こういう人の住む家はもちろん、牛小屋か、馬小屋を思わせる建物なんですね。その作り込みの面白い事。
また、主人公の喫茶店の横には、実に小さな、真っ白な家が建っています。よくみると、なんと掟破りの屋根。塗りで仕上げてある。雨漏りしないんだろうか? とにかくかわいらしく、いじらしく、真っ白な姿で、けなげに建っている白い家。
まあ、本作では、正直、僕はそんなところばかり観ていました。でも不思議。
エンドロールが流れる中、なぜかふと涙がこぼれました。
そういう映画なんですね。
主演の吉永さんが、コーヒーを入れる時のおまじない。
「美味しくなぁ~れ、おいしくなぁ~れ……」
人生、これもやんなきゃ、あれもやんなきゃ、もっと、もっと、頑張らなくちゃ、と緊張を強いられる事ばかりですよね。でもこの言葉を聞くと、
「ゆっくりになぁ~れ、ゆっくりになぁ~れ」と僕には聞こえたのでした。