「人にも自分にもちょっとだけ優しく。」思い出のマーニー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
人にも自分にもちょっとだけ優しく。
原作未読。
そのうえ僕はジブリアニメというかアニメ自体をそんなに観ないので、
『思い出のマーニー』がジブリとしてどういう位置付けに当たるのかは分からないのだが、
そちらの方が先入観ナシで観られて良かったのかもしれない。
ファンタジーというよりは、ファンタジー要素の強いドラマ。
人と係わり合うことが苦手で、疎外感を感じながら生きている少女が、
マーニーと名乗る謎めいた少女と出会って少しずつ成長してゆく物語。
いや、すごく良い映画だったと思います。
緑豊かな背景や隅々まで作り込まれた舞台の美しさ、
主人公の心がストレートに伝わる細やかな描写。
脇を固めるキャラクターたちの明確な位置付け。
そして何より、物語の底に流れる優しさ。
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物語を牽引するのは『マーニーは誰か?』という大きなミステリー。
彼女は杏奈の空想上の友達?それとも過去の亡霊?
僕はサイロに向かうシーンの直前辺りでマーニーの正体を確信してしまったのだけど、
だからと言って物語への興味を失ってしまう事はなかった。
むしろ、そこから終幕までずっと、涙を堪えるのに必死だった。
マーニーの序盤での台詞――「時々あなたを見ていた」という言葉はそういうことだったのかと。
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嵐の中で杏奈が叫んだ、「許してあげる」という言葉。
あれはきっと彼女にとって、マーニーひとりに向けた以上の意味があったんだろう。
杏奈を気遣うあまりにあと一歩距離を縮められない継母。
自分ひとりを遺して死んでしまった両親そして祖母。
「仕方がないと分かっていても許せない。そんなことを気にする自分も嫌い。」
自分は誰からも愛されていないのではないかという不安。そして、
他人とふれ合うことに臆病な理由を、自分の不幸な身の内だけのせいにしてしまう自分への怒り。
あの「許してあげる」は、彼女が今まで許せなかったもの総てに対しての言葉だったのかも。
そうして彼女は、『生意気で醜くてバカで不愉快で不機嫌』な自分を少しだけ捨て去ることができたのかも。
自分と、自分を取り巻く世界を好きになれたのかも。
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自分の価値が見出だせない、自分の居場所が見つからない。そんな息苦しさ。
けれど、無条件に杏奈を愛してくれたマーニーや、
屈託のない笑いとおおらかさで杏奈を受け入れた
叔父さん叔母さんのような人たちがいるお陰で、
『自分はここに居てもいいんだ』と思える。
自分に絶望しないで僕らが生きられるのは、
そんな優しい人たちが周りに居てくれるお陰だと思う。
(叔父さん叔母さんを思い出した瞬間に杏奈がマーニーの前から消えてしまうシーン。
あの時すでに杏奈は、自分の居場所のある世界を好きになり始めていたんだろう)
杏奈が人を許せる心を持てたのは、マーニーから
『悲しみや幸せの尺度は人それぞれ』ということを学んだお陰でもある。
どれだけ幸福に見える人間も悩みを抱えているし、
どれだけ不幸に思える身にもどこかに救いがある。
そう考えれば、人にも自分にもちょっとだけ優しくなれる。
生きることの息苦しさを少しは和らげられるのかも。
観賞後、そんなことを考えた次第。
〈2014.08.23鑑賞〉
とても素晴らしいレビューに感動しました!私はジブリの映画をほとんど観てますが、この「思い出のマーニー」が、ダントツで好きです!浮遊きびなごさんの非常に優しく的を射た この物語の洞察に 益々 この作品の良さがわかりました!