シンプル・シモン : 映画評論・批評
2014年4月28日更新
2014年5月3日よりユーロスペースほかにてロードショー
スウェディッシュポップ満載で描く、アスペルガー症候群青年の爽やかムービー
毎朝お兄ちゃんの運転するバイクの荷台に座り、職場まで送ってもらうシモン。日本じゃ見たことのないそのバイクが、楽しそうで牧歌的な雰囲気を醸し出して、とてもいい。
アスペルガー症候群であるシモンには彼のルールがたくさん。規則正しい生活を送り、変化が大嫌い。一見不可解な彼の行動も、シモンの頭の中の論理が画面にグラフや数字、言葉として出てくるので、作品を見ている私たちには、なるほどとわかりやすく面白い。家族が困ってしまう事態は多々あるけれども、シモンにはいちばんの良き理解者である兄サムがいる。シモンもサムもハンサムなので、どんな不幸な状況でもそんなに絶望的には見えず、互いに奮闘する姿がかわいらしく、つい笑ってしまう。
舞台がスウェーデン郊外の穏やかな街というのも重要。緑豊かな広い公園と、やわらかい日の光、そしてすてきなテキスタイルの壁紙、インテリアが織りなす色合いがやさしい時間を作り出し、彼らを温かく見守っている。シモンがいつも着ている赤いジャージについている缶バッジには"RÖR MIG INTE jag har Asperger"とある。意味は「さわらないで アスペルガーです」だ。警告のメッセージであっても、スウェーデン語とカラーですごくかわいい。
食事のときのテーブル周りや、サンドイッチの形、職場の構成、音楽など、どんな細かい部分にも期待を裏切らないスウェディッシュポップが満ちあふれている。困難に直面したとき、彼は手作りの小さい宇宙船(ドラム缶)に乗り込み、宇宙を漂う夢想をするのだが、そのファンタジー感も魅力的。無表情で、難しく見えるシモンも、彼のルールを理解すると、一途でひたむきな思いがちゃんと伝わるのだ。ヒロインの女の子でなくともアスペルガー症候群も込みで、丸々惹かれるキャラクターである。「シンプル・シモン」を見終えた感じは、IKEAのこけももジュースのように爽やかであった。
(衿沢世衣子)