「時は、めぐる」インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
時は、めぐる
時代の踏台となった、名もなき男ルーウィンの一週間を描く。
最初と終りのシーンは似かよっており、ラストで振り出しに戻ったかのようで、ループを思わせる。彼のその後の人生も、こんな一週間の繰返しなのだろうなと思う。
名もなき男は、名もなき男のままで一生を終えるんだろうな、という予感である。
その予感は、一週間の出来事にも滲んでいる。
例えば初老のデブのミュージシャンが片田舎のトイレでぶっ倒れるシーン。
例えばルーウィンの父親が老人ホームの窓辺に座っているシーン。
浮き世草のルーウィンの行く末を、暗示しているかのようである。
才能はあるが金もなく扱いづらい男の未来の姿である(もっと酷いことになってるかもね…とも思う)。
人の老い先、そしてその先にある「死」が点在する。
この映画の「一週間」を見ていると、名もなき男の行く末、生涯を見ているような気持ちになる。(ルーウィン一人のというより、父親、そして自殺した相棒といった、無数の名もなき男の人生が渦巻いているようにも見える。)
そういう無数の名もなき人の人生が積み重なって、時はめぐり、歴史の一部となっていくんだろうなと思う。一人の天才(ボブ・デュランのような)のためだけに、時は流れているのではない。一人の天才だけが歴史を作っているわけでもない。
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かつて相棒と二人で歌っていたFare Thee Wellを、ルーウィンが独りで歌うラストシーンがイイ。
映画中盤ではFare Thee Wellを歌えなかった、歌いたくなかった(相棒の死から立ち直れてなかったからだと思う)。
旅を経て、Fare Thee Wellを歌う。
華やかに高らかに誇らしげに歌い上げたりはしない。
含羞に満ち、静かである。
彼の歌には、本人、相棒…無数の名もなき人たちが滲んでいる。
だから、心打たれるのではないかと思う。
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追記:ティンバーレイクのミュージシャンとしての艶が素晴らしい。アイザック&マリガンも魅力的だった。撮影ブリュノ・デルボネルの微妙なさじ加減(マーレイ・エイブラハムのシーンなど)も良かった。