「未完成感」ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅 yanpakenさんの映画レビュー(感想・評価)
未完成感
5人の大統領が崖に掘り込んである有名な山を見上げながら、「感想は?」と息子に尋ねられた老いた父親の言葉は「未完成だな」。真っ正直を絵にかいたような息子の期待をはぐらかすくせのある大酒飲みの父親。宝くじで1億円が当たったと周囲に吹聴しているが、0.000001%の確率を楽しんでいるにすぎない。本来、宝くじとはそういうものだ。当たっているかいないかわからない時の流れる間がすべてである。
その時間を描くには、人生のゴールが近い父親がとりつかれたように宝くじの結果を求めて突き進む密度が必要で、その密度が滑稽さを通り越して痛々しい。死を覚悟した老人に引きずられるように、会いたくもなかった親戚・家族・昔の友人が寄ってくる。いや、真っ正直な息子がおせっかいをやいているだけだ。父親にしてみれば親孝行のつもりの息子から逃げたいのだが、肉体の衰弱には勝てず、息子と旅に出て、人生を振り返ってしまう。
ロードムービーといっても、車はあまり走らない。金目当ての旅なのに1500kmを3日もかけて走るから、走りたいのか休みたいのか、よくわからない。老いた父親も金が欲しいのか欲しくないのかもよくわからない。旅の途中で酒ばかり飲んでいる。宝くじに当たっているはずがないのに、当たっていないことを確かめなければ旅は終わらない。当たっていないことがわかったら旅は終わる。そのむなしさがこのロードムービーの命である。
宝くじ発行元の事務所で、パソコンで当選番号を確認して、当たっていないことがわかってから息子が本領を発揮して、父親の昔の友達に一泡吹かせる。旅も終わり、人生ももう終わる時に、最後に旅を楽しもうという趣旨のようだ。いたずらをする面白さの効果をどうとらえるかで、映画に対する印象は変わるので、最後の展開については、賛否が分かれると思う。