「タイムトラベル必要なし」アバウト・タイム 愛おしい時間について うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
タイムトラベル必要なし
この作品の主題は、「人生を上手に生きるためには?」という問いかけで、基本的には人生賛歌です。
主人公はタイム・トリップを駆使して、お好みの人生を選んでいきますが、家族、特に恋人や妹の人生はそれに翻弄され、何度もリセットを繰り返されます。
個人的には、この設定に強烈な異和感を感じました。
例えば、妻になるメアリーとは、運命的な出会いを果たしますが、主人公が力を使ったことで、それはなかったことになってしまい、あろうことかメアリーは他の軽薄な男性と付き合ってしまいます。
そんな簡単に相手が代わる女性が、果たして自分の運命の人だなどと思えるでしょうか。
たとえ誰と付き合っていたとしても、最終的に自分の価値に気付いてくれてお互いを認め合うことになるし、ささいなことでその女性にもう会えないのだとしたら、それだけの存在だったということになると思います。
現に、この映画でも主人公がその存在を忘れていた初恋の女性と再会しますが、その時彼は最終的にその女性をふってしまいます。
それも、いろいろと自分に都合良く過去を塗り替えた挙句に、です。
また、妹は付き合った彼氏の影響で人生を大きく狂わされたと勝手に信じ込み、主人公はその彼氏と付き合わない人生を妹に選択させたりします。
この脚本家なり、監督なりの女性観・人生観は「女はほっとくと、ろくでもない男にだまされて不幸な人生を送る」「女の人生は付き合う男によって幸福にも、不幸にもなる。」という偏見に満ちているように思います。
また、映画の後半「ここで、この人生を選んでしまうと、もう二度とこの人に会えなくなってしまう。」そのジレンマに突き当たったときに、主人公は迷い、どうしていいのか分からなくなります。
結局、やり直しのきかないのが人生なんだという結論に達し、だからこそ人生は素晴らしいんだ、みたいなことにお話の方向性が向かってしまいます。
タイム・トリップ必要なし。
「バタフライ・エフェクト」を期待した観客は大きく期待を裏切られるでしょう。
かくいう私も、タイム・トリップを繰り返し、人生を上手く有利に運ぼうとした主人公が、そのパラドックスに苦しみ、最後には鮮やかに人生を謳歌するようなストーリーを期待したのですが、もっと観念的で哲学的なテーマの作品でした。そのくせ、何の教訓めいた「おとぎ話」要素も含まれておらず、見終わったあとに残酷なほど何も残りません。
とても薄っぺらい作品でした。
2014.10.2