物語る私たち : 映画評論・批評
2014年8月25日更新
2014年8月30日よりユーロスペースほかにてロードショー
サラ・ポーリーとその家族が、自分たちの秘密を大胆なおおらかさで語る秀作
女優であり、劇映画の監督としても活躍中のサラ・ポーリーが、自分の複雑な家庭を、自分を含めた家族たち自身に語らせたドキュメンタリーの秀作。女優だった母ダイアンは最初の結婚に失敗し、サラの父となるマイケルと再婚。生涯で5人の子を産み、離婚で親権を父側にとられて離された子どもたちを愛しながらも、女としての愛も追い求めた。マイケルとは、最初こそ激情的な恋から始まった関係が、次第に凪(な)いだものになっていく。本作では夫や子供たちが、ダイアンがいかに落ち着きのないユニークな存在だったか、そして愛や舞台のため奔放に生きながら、それでも許せるほどチャーミングだったことを浮かび上がらせる。そこに漂うのは親子の関係を超えた、ひとりの女性への慈しみや親密な理解だ。
そして思いがけないダイアンの早逝など、家族の歴史は荒波に晒される。しかしサラ・ポーリーの穏やかな演出は家族をおちゃめに結束させ、家庭の秘密の部分ですら、大胆なおおらかさで物語ってみせる。
サラは小さい頃から家族に「おまえは誰にも似てないぞ」とからかわれる。ファミリー恒例のジョークだったそれに、サラは本当に疑念をもち始め、裏をとることにする。でもそれですら、この映画はダイアンが子どもたちを心優しく育て、そして愛した男性たちをいまだに惹きつける魅力と、さまざまな愛の表現をもたらしたのを証明することになる。とある衝撃の事実の発覚も、家族として育ってきた彼らの関係性を今更壊したりはせず、逆にこの作品においては、愛の対象がより広がるのだ。
物語るサラ・ポーリー自身が全然湿っぽくならずにユーモアを湛えているし、既婚の母の恋愛について、サラの姉は「愛を探してたママが、愛に出会えていて良かった」と涙すら流す。愛への共鳴は教育では生まれない、まさにダイアンの血を受け継いだ感性の賜物だ。あっと驚く映像の仕掛けも巧妙に溶け合って嫌みがなく、思わずニンマリしてしまう軽やかであっけらかんとしたシメも、お見事!
(真魚八重子)