「人間の多面性」アクト・オブ・キリング ハンペン男さんの映画レビュー(感想・評価)
人間の多面性
これを歴史的な虐殺の戒めとして観るなら宇野惟正氏の言うように「全否定」となるのかもしれない。暴力で支配を繰り返してきた国の中心であるアメリカの監督がこの虐殺を安易に否定することは甚だおかしな事で、先ずはお前の国からだろうという話である。
しかし、この作品が残酷なまでに描きだしている「人間の多面性」は驚愕に値するものだ。本作の鑑賞後の感想として「酷い人がいるものね。」となるのか「自分もああなり得る。」となるのかでは全くこの映画の意味は異なるのである。鳥の怪我を心配した後に嬉々として虐殺の内容を自慢気に話す。この様なシーンが本作には何度も意図的に挿入されている。勿論、どちらが本物だ偽物だとかそんな単純な話ではない。どちらも本物であり人間とはそうゆう多面性の生き物だということをそれらのシーンは如実に表している。本作には「勝ったものが正義であって、勝ったものが秩序なのだ。」「お前にとっての地獄は俺にとっての天国だ。」という印象的な言葉が出てくる。その秩序が間違っているとは思いつつも、その現実を否定することは出来ない。事実そうであるのだから。これは他人事ではない。日本が万が一、第二次世界大戦に勝っていたら、自分もあっち側にいたのかもしれないのだ。状況によっては誰しもが無自覚に時代の「歯車」になってしまう。それは、とてつもなく恐ろしいことだ。
どんな極悪非道な人間でも優しい一面はあり、どんな博愛主義者にも醜い一面はある。スクリーンの向こうに映し出される人々を切り離して考えるのか、自分の延長線上に見るのか。安倍政権発足後、その歯車になりうる現実味を帯びてきてしまったこの時代に、大きな指針となる偉大な作品だった。