劇場公開日 2014年4月12日

  • 予告編を見る

「大量虐殺の加害者は“怪物”ではなく“ヒト”、特別過ぎない卑近な人間でした。」アクト・オブ・キリング Opportunity Costさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5大量虐殺の加害者は“怪物”ではなく“ヒト”、特別過ぎない卑近な人間でした。

2014年5月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

頭グチャグチャになる作品でした。

本作は当時1,000人を手にかけたアンワル・コンゴを中心に話が進みます。
元はダフ屋だったアンワルは当時の時勢に乗り共産主義者と“思しき”人物達を鏖に。

画面に映る現在のアンワルは白髪の一見好々爺という出で立ち。
孫を可愛がる姿は普通の老人という雰囲気。
そのような人物が嬉々として過去の虐殺を語りだし仲間と共に自主映画を作り出す。
後世の人々に自分達の功績を残すため。

『人を殺してはいけない。ましてや殺したことを自慢げに話すなんて』という自身の常識。
一方、アウトロー側の人間とはいえ、姿形や家族を慈しむ感情は同じ存在であること。
その違和感や非現実感に頭グチャグチャになります。

普段目にする映画等での虐殺者は、異形の“怪物”。
見た目からして自らとは異なる存在として捉えることが出来て心理的な距離感があります。
しかし本作を通して見えてくるのは虐殺をする側もされる側も同じ人間であること。
今は周りの見解や雰囲気含めて、その行為を否定することが出来ますが。
時勢等の舞台が揃ってしまえば自分自身もあの立場になってしまうのでは。
彼等が特別過ぎない卑近な存在であるが故に自身の考えや立ち位置の脆さに恐怖を覚えます。

また彼等が作成する自主映画の雑さやチープさに思わず笑ってしまうことも感情を揺さぶられます。
素人が考えた脚本、素人が作った小道具を使って雑な演技を行う。
その間抜けさに思わず笑みが零れるものの、扱っている内容が内容なだけに笑っていいやら悪いやら。
笑うことで彼等の行動を少しでも肯定しているような気すらして変な気持にさせられます。

画面に映る人物達と距離を取りたいにも関わらず、共通点を見つけてしまい違和感を抱く本作。
自主映画の作成を通してアンワル自身にも変化が生じていくのですが。
終盤の或る展開は息をのむ一方で『噓臭い、演技の延長だ』と思ってしまったのは、少しでも彼から距離を取りたかったからかもしれません。

インドネシアで当時起きたことを知る切欠としても良い作品だと思います。
オススメです。

コメントする
Opportunity Cost