「何度でも。あきらめない。」それでも夜は明ける ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
何度でも。あきらめない。
本年度アカデミー賞作品賞受賞。
おそらくこれが獲るだろうと思ってはいたけれど、
イギリスの黒人監督がアメリカの人種差別を描くという、
この人の挑戦スピリッツは大したものだと思う。
そもそも名前からして凄いんだけど^^;これ本名なのね。
あの名俳優もこれだけ後人がやってくれれば大喜び!?
冒頭で「自由黒人」という言葉が出てくるんだけど、
奴隷制度に知識の足りない私には初めて聞く言葉だった。
白人同様に生まれ育ち生活していた音楽家のソロモンは、
妻子が留守のある日、興行仕事の依頼に乗って騙される。
酒を飲み寝入った翌朝、奴隷市場に売られてしまうのだ。
自身が自由黒人であることを訴えるも、誰も耳を貸さない。
最初の農場主であるフォードは優しい主人だったが、
(カンバーバッチ、衿のフリルも役柄も似合いすぎ)
ソロモンの知性が他者の反感を買い、リンチされてしまう。
この描写が凄い。
首に縄を捲かれ木に吊るされたソロモンは、止めに入った
監督官により命は救われる。が、農場主が戻るまでの間、
ずっとそのまんま吊るされているのである、つま先立ちで。
邸宅から見下ろす白人、後ろでは普通に仕事をする奴隷と
遊びに興じる子供達。すべてが彼を丸無視状態なのである。
この壮絶な背景で彼がどんな立場にいるのかが分かる。
次の農場主は徹底した差別主義者で、ここはリンチの連続。
そしてここには彼を上回る拷問をされている女奴隷がおり、
主人は彼女を性の道具にしていた。演じたのがL・ニョンゴ。
正妻が下す沙汰は愛人への嫉妬であり、これは奴隷だから
という判断レベルではない。死ぬまで鞭を打て!との指令に
逆らえば殺されるソロモンが、泣く泣く彼女を鞭打つ場面も
かなり悲惨。一番の働き手を失ってもいいのか!?農場主。
一体どちらが無知なのかと首を傾げてしまうほど、彼らの
リンチは酷さ極まりないが、ここでソロモンはあるカナダ人
と出逢う。これが製作を引き受けたブラピなもんだから^^;
彼の役回りがズルいほど「いい人」なのは致し方ないのだが、
彼に頼んだ告発文が功を奏し、ソロモンはついに解放される。
彼は元々自由黒人だったのだから、解放されて当然なのだが、
あの屋敷に遺された奴隷たちの、その後が気になる終わり方。
実在のソロモンは奴隷解放に尽力したようだが、訴えはほぼ
却下されたり、無罪放免という結果になった(後説に出てくる)
まったくもって酷い話になるが、
知性ゆるがないソロモンの、それでも白人を信じようとする姿
が印象的だった。騙されても痛めつけられても白人達を信じ、
何度でも依頼・懇願する。すべては家族のもとに帰るため。
これが実話とは、一体どういう国なんだよ!と思ってしまうが、
こんな風に部下を奴隷扱いして、イタぶってる上司はいないか。
…と、現代社会に置き換えて考えてしまった。
あのキンキーブーツが記憶に残る^^;C・イジョフォーの大熱演。
先日観た大統領の~もそうだったが、静かに過酷な戦いに挑む
描かれ方がよく似ている。最後まで諦めない姿に感動を覚えた。
(監督ご贔屓のファスベンダーもさすが!似合うところが辛いなぁ)