「笑う門には福ちゃん来たる」福福荘の福ちゃん 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
笑う門には福ちゃん来たる
森三中・大島美幸の映画初主演作。
演じた役が驚き!
何と、男役!
監督がTVで大島のおっさんコントを見て、アイデアを膨らませたとか。
最初は幾ら何でも無理あるだろうと感じるが、見てると、おっさんにしか見えなくなってくる…はさすがに語弊。大島の為の役なので、ハマってくる。
作品の方も、おふざけコントでもおバカ映画でもない。
思ってた以上…いや、遥かに上回るほどの好編だった!
福田辰男こと“福ちゃん”。
ボロアパート“福福荘”で暮らしている30過ぎの独身男。
ぽっちゃり体型。
仕事は、塗装職人。
趣味は、凧作りと凧上げ。
性格は、人情の男。
面倒見が良い。
仕事場や福福荘の人間関係のトラブルや問題を解決したり、相談に乗ったり。
いい兄貴。大島に掛けて言うなら、“親方”!
そんな誰からも好かれる福ちゃんだが、自分の恋愛に関しては…。
全く以て無縁。
せっかく親友のシマッチがいい相手と場をセッティングしても、よそよそしい。
醜男な自分に自信が無いからのように感じるが、ただそれだけじゃないような…。
女性を前にすると上がる所か、女性と対する事自体が苦手な、“女性恐怖症”。
実は、過去のある出来事がトラウマになっていて…。
ある日、福ちゃんの元に一人の女性が訪ねてくる。
福ちゃんは相手にびっくり!
その女性・千穂は、福ちゃんの学生時代の同級生で、福ちゃんが女性恐怖症となった原因を作った張本人だった…!
学生時代、肥満体型故いじめられていた福ちゃん。
そんな福ちゃんに告白してきたのが、千穂。
実は、これもいじめの罠。千穂もグル。
幸せ絶頂の福ちゃんを、文字通り落とし穴へ落とす。千穂たち皆、ケラケラ大笑い。
以来、福ちゃんは女性や恋愛が怖くなり…。
その事を謝罪しに来た千穂。
今頃謝られても…と、戸惑う福ちゃん。
そう思うのも当然。何で、今頃…?
一流会社のOLだった千穂。
趣味のカメラが尊敬する写真家の名を冠した賞を取った事で一念発起。会社を辞め、その写真家に弟子入り。
が、神様と崇めていた写真家は…。
カメラも撮れなくなり、同居してる友人の心配をよそに、家に引き籠って、つまらないTVをボーッと見て、昼間から酒を飲む毎日…。
人生、どん底。
そんな時、ふらりと入った喫茶店の一見怪しげなママから、ある指摘を受ける。
昔犯した悪い事のツケが、今払われている。
それに該当したのが、福ちゃんへのいじめ。
随分と虫のいい話である。
今自分の人生がどん底だからって、昔の過ちを謝り、許して貰おうなど。
そんな事くらいで帳消しになるものか。それくらい、福ちゃんの心は残酷に傷付けられた。
また笑いモンにしに来たんだろ!…と、泣き怒る福ちゃん。
が、千穂の謝罪と誠意は本当のようで。
それを知り、気分も晴れ、謝られないより謝られる方がいい…と、受け入れる福ちゃん。にっこりと笑顔。
その“いい顔”を見て、千穂は…。
再び、カメラへの情熱を取り戻す。
福ちゃんをモデルに、福ちゃんの自然体の表情や日常をカメラに納めまくる。
福ちゃんも、千穂も、周りの友人たちも、ほっこり温かい上昇気流に乗った凧のように。
特に、福ちゃんが。
昔、トラウマ失恋となった相手に、再び…いや、今度こそ本気で募る恋心。
時々ポ~ッとなったり、仕事で初歩的なミスをしたり、千穂の写メを眺めたり…まるで、寅さん!
そんな福ちゃんを心配するシマッチ。
千穂へ苦言。
自分の為だけにやってるなら、福ちゃんに近付かないでくれ。
千穂がこれまで撮った福ちゃんの写真が、写真集として出版される事に。
その“作品”の数々を見て、千穂とシマッチは和解する。
仲のいい面々が集った出版記念のパーティー。
そこで、思わぬ事件が…!
大島のおっさん演技も最高にいいが、周りのキャストも皆、好演。
醜男や冴えない男たちの中で掃き溜めに鶴(失礼!)、水川あさみの美貌と魅力が映え、存分に放っている。
時々口は悪いものの、実はとても友情に熱いシマッチ役の荒川良々が、目頭熱くさせる。
千穂の同居人の平岩紙、福福荘の住人・馬渕さんや野々下くん、演歌歌手を目指している仕事の後輩(徳永ゆうき)…皆、愛おしいくらい!
でもまさか、野々下くんがあんな事を…!
千穂が神様と崇めていた奇才写真家、福ちゃんと“カレーに水”でバトルを繰り広げるインドカレー店主(古舘寛治)…風変わりな面々も何だか憎めない。
思わぬ事件が起きたが、おおらかな心で受け止める。
しかし、寅さん然り、愛すべき人情男の恋路はちと切ない。
本作はコメディ。クスクス笑いが滲み、シュールでユルい。
でも、ただそれだけじゃない。
印象的に残った台詞も多々、笑えて、ほっこりして、しみじみと、見事な人情映画!
藤田容介監督のこのセンスも気に入った!
ラストの思いもよらぬ、だが幸せな引っ越してきた人物との“再会”まで、本当に心地よく見れた!
惜しむらくは、
もっと早く見ればよかった~!