「科学賛歌」トゥモローランド SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
科学賛歌
40代、50代あたりが子供の頃思い描いていた未来の世界!それがトゥモローランド。
車や人が空を飛び、流線型で銀色の建物、気軽に宇宙旅行、ハッピーで青空な未来。
現実には来なかったそんな未来が、なぜか「バッジ」に触れると行けるという。
とてもメッセージ性が強い映画なので、賛否両論になりそうだ。
最終的に語られるのは、悪い未来を思い描くと悪い未来が実際に実現されるという、「予言の自己成就」。これを回避するために、良い未来を信じるドリーマーを集めましょう、ということ。
最後のオチでいきなり教育くさいというか、まるでディズニーランドのアトラクションの語りみたいな感じになったのが陳腐に思えてしまった。
この映画は、「あなたは科学をどう考えますか?」ということを問いかけてくる。
20世紀前半では、科学が素晴らしい未来を作りますよ、というバラ色の未来が語られたけど、後半では、公害、環境問題、戦争などで、科学の負の面に注目せざるを得なくなった。
そして現在は、「バラ色の未来を夢見て、いけいけどんどん、の時代は終わった。そうじゃなくて、持続可能な未来を作ることが必要だ」という価値観になっていると思う。
この映画は、「みんな未来を悪く考えすぎ! みんなが信じれば、昔の子供が夢見たようなバラ色の未来は実現できるんだよ!」って言いたいんだと思うのだけど、その議論は現実社会の中ではもうとっくに通り過ぎてる話と思うんだよね。
トゥモローランドのロゴやバッジの、原子力を象徴するマークが何度も出てくるのは、挑発的に感じた。
まさに原子力が、過去においてはバラ色の未来を約束するもので、現在においては科学の負の面と人類の業の象徴だからだ。
この巨大な力、科学の力を、あなたはバラ色の未来を作るために利用するの? それとも、人類をほろぼす力だとこわがって、蓋しちゃうの?って感じに。
その辺がこの映画のもやもやするとこ。
未来に対して悲観的になることも大事だってことを、僕らは身にしみて学んでる。未来に楽観的な人が善で、悲観的な人が悪なんて、そんな単純な話じゃない。
悲観的であろうが楽観的であろうが、建設的に問題を解決しようと努力する人が善で、何もせず文句ばかり言っている人が悪だ、って感じにすりゃあ良かったのに。
とはいえ、油断すると人類滅亡しちゃうよ?という悲観的な未来像ばかり見せられてる今の子供もかわいそうだ。危機感を煽るだけじゃなく、未来は明るいよ?こんな未来つくりたいでしょ? といってやる必要もあるんだろう。
トゥモローランドの未来世界の映像は素晴らしくて、本当にこういう世界を見られるアトラクションがあれば、何時間でもいたいな、と、思った。
アテナもかわいくてけなげで良かった。でも殺す必要はなかったでしょ。
彼女はまさに人間の知から生まれ、知の象徴でもある、ホムンクルスそのものであって、科学がテーマのこの映画にとって最重要なキャラといって良い。また、役回りとしても、プロメテウスを思わせるところがあり、面白い。いったいなぜ、彼女があのような行動をしていたのか、そのへんの動機が全く語られなかったのが残念。アテナを中心とした話だったらまた観たい。