大人ドロップ : 映画評論・批評
2014年4月1日更新
2014年4月4日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー
大人になってから振り返る青春の味をリアルに再現
「まいったな」。これは主人公の高校生、由(池松壮亮)がたびたびもらす口癖なのだが、見終わった後にまず、浮かんだのも同じ言葉だった。懐かしスイッチを思いっきりオンにされ、あふれ出る涙をなかなか止められなかったからだ。10代の観客が見て共感する部分はもちろんあるだろうけれど、これは時が経ってから大人が振り返ってみる青春の味をリアルに再現した、大人にこそアピールする青春映画の佳作である。
豊かな自然に恵まれた伊豆の田舎町。高校最後の夏を迎えた由は不器用な親友のハジメ(前野朋哉)から、クラスメイトの杏(橋本愛)を誘ってダブルデートがしたいと相談をもちかけられる。杏と仲のいいハル(小林涼子)に頼んで了解を得たものの、ガキっぽい小細工のせいで杏を怒らせてしまう由。杏とは幼なじみだったが、いつしか距離ができてしまっていた。夏休みが始まり、杏が高校をやめてしまうと知った由とハジメは、何も言わずに遠くへ越していった彼女に会いに行く。
大人になろうともがいていたあのころ。自意識過剰で自分をもてあまし、変わりたいのに変われない、動揺しまくりながら動じていない振りをする。何もわかっていなかった10代の、ふがいなさ、鈍さ、バカさ。そういう愚かしさがたまらなく愛おしいと感じる。この感覚は、何もわかっていなかったということを掌握した後でないと実感できないものなのだ。なんだかまるで、さっきまで見ていたのに霧のようで思い出せなかった甘美な夢の続きを、たぐりよせて再び味わえているような懐かしさ。苦みと恥ずかしさ、大人の目線が単なる感傷から救ってくれているが、とげられなかった思いは涙の引き金を引く。誰もがもっている「ああ、なんてバカだったんだ」が頭をもたげる。
メインキャストの4人がそれぞれの持ち味を最大限に生かし、感嘆するほど役にはまった。とくに、受け入れることと諦めることを選び取り、大人になっていく杏を演じた橋本のまなざしが忘れがたい。
(若林ゆり)